貴澄の誕生日に私をプレゼントする話 (鴫野貴澄)



もうすぐ貴澄の誕生日だなとカレンダーを見ながら指折り数える。


貴澄はきっと彼女である私が何をプレゼントしたとしてもものすごく喜んでくれるとは思うけれど、どうせならば貴澄が本当に欲しいものをあげたくて。

だけどいくら考えても何がほしいのか、何がいいのかが思いつかない。
だからそれならばということでいっそのこと思いっきって貴澄本人に聞いた「誕生日プレゼントには何がほしい?」という質問。すると貴澄は「うーん……」と少し考えた後に「なまえがいいな」と言って笑った。

「なまえって……え、私!?」
「うん、なまえがいいな」

ふふっと笑った貴澄は眉を下げると目を細める。「考えておきます……」と答えたら「いいお返事を待ってます」と言って貴澄はまた笑った。



私ってことはそういうことなのかな……。

その言葉の意味がわからないほど子供なわけではないけれど、それでもそれが本当に正しいのかと頭を悩ませる。

ただ純粋に私と遊びたいだけなのかもしれないし、私が変なふうに考えてしまっているだけかもしれない……。でも本当にそうだったら……?

貴澄のことが大好きだけれど上手く出来るかなんてことはわからない。本当はどういうことなんだろう、なんて貴澄に真意を確かめない限り答えは出ないことで頭を悩ませる。

そういうことなのかな、どうしたらいいのかなって思っていたらちょっと貴澄と目が合わせずらくなって、プレゼントが私だけっていうのも貧相だなって思っていたらあっという間にもう貴澄の誕生日当日で。貴澄のお家にお呼ばれしたということはやっぱりそういうことなのだと思う。

身につけるものには気を遣って、いつもよりも心持ちメイクも髪も可愛くして。前に何かの漫画で読んだ、自分にリボンを結びつけるのはやめた。そうして色々準備をしてから貴澄のお家のチャイムを鳴らした。

「わー! いらっしゃい。待ってたんだ」

扉を開いた貴澄はもう既に笑顔だった。ニコニコと嬉しそうにお家の中に招き入れてくれて「今日少し暑いよね」と目を細めた。

「お邪魔します」
「どうぞどうぞ。好きなところ座って」

もう何度も入ったことのある貴澄のお家。貴澄がいつもここで生活していて、今はそこに二人きりなんだとかそういうことをいつもよりもやけに考えては緊張してしまう。

座り慣れたテーブルの後ろでいつもよりも縮こまっていたら「何してるの?」と不思議そうな貴澄が飲み物を持ってきてくれた。お礼を言って受け取ると、貴澄も定位置である私の隣に座る。

いつもと同じ距離なはずなのに今日はやけに近い気がして、心臓がうるさくて。早くこの緊張感から逃げ出したくて、もうなるようになれとでも半分やけくそで貴澄の方へと向き直る。

「貴澄、誕生日プレゼントは私だよ」
「…………え」

目を丸くした貴澄がぽかんと口を開けて固まっている。言うタイミングは今じゃなかったのかもとふと思うと、一気に羞恥心が押し寄せてくる。

「……ごめん。今のは忘れて」

ばっと勢いよく貴澄から顔を背けて反対側を向けば自分の顔が熱くなっているのがわかる。だけどその熱を冷まそうにもどうにも出来なくて、ひとまず心を落ち着かせるために先ほど貴澄に手渡された飲み物を一口飲んだ。すると貴澄はそんな私の様子をどうやら見ていたらしい。私がコップをテーブルの上に置いたなり貴澄がようやく口を開いた。

「もしかして、こないだ僕がなまえがいいって言ったからだったりする?」
「……うん」

相変わらず貴澄の方は見られないまま横を向いて答えると貴澄が突然笑い出す。

「あはは、冗談だったのになぁ」
「え? 冗談……??」

その言葉に驚いて貴澄の方に振り向くと「ごめんね。キミのことたくさん悩ませちゃったんじゃない? キミ、さっきも変だったし」と貴澄が困ったように笑う。

「悩みはしたけど貴澄ならいいなって思ったよ」
「……そっか」

ずっと思っていた気持ちを素直に口にすれば、貴澄が嬉しそうに頬を染めた。


◇◇


「えっと……、貴澄……。……もしかしてするの?」
「ふふ。どうする?」

貴澄の腕の中に包まれながらそう問いかけると貴澄は再び頬を染めて笑った。

何をするでもなく貴澄に後ろからぎゅうっと抱きしめられながら、話をして笑い合って。
正直に言うとこれだけでもういっぱいいっぱいだからその先のことなんてその時にならないとわからない。そんなことを考えながら貴澄の腕に触れて、ふと彼を見上げる。すると目が合った貴澄が、あははと声を出して笑った。

「残念ながら僕はまだ気持ちの準備が出来てないからさ、良かったら代わりになまえの一日を僕にちょーだい」

眉を下げた貴澄は、目を細めると頬を赤く染めていたからなんとなくほっとして。「最初から貴澄のものだよ」って言ったら「それもそうだね」と笑う貴澄にお出かけデートに誘われた。



「プレゼントって本当に私で良かった?」
「良いもなにも、なまえが一番だよ」

デートの最中、そう言って貴澄は笑う。
また一つ大きくなった貴澄の笑顔は今年も変わらずあたたかくて。見ていたら私まで嬉しく、心があたたかくなった。


──どうか貴澄にとって、楽しくて素敵で幸せな歳でありますように。貴澄の笑顔を見ながら、そう心の中で呟いた。


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