赤子連れ初詣は一筋縄ではいかない (鴫野貴澄)

子供が産まれてから初のお正月。

赤ちゃんは首もすわってそこまでの心配もいらなくなったから「昔みたいに2人とも着物着てお参り行かない?」ふふっと目を細めて嬉しそうに笑う貴澄の提案に乗って、着物姿で向かうのは近くにある大きな神社。


「やっぱり僕が抱っこしようか?」
「ううん、大丈夫だよ。この方が温かいし」
「えー本当に?」

心配そうに覗き込んできた貴澄は「……あ、ほら見てママ。今笑った」赤ちゃんに手を振り返すと幸せそうにこちらを見てくる。

だけど神社が近づくにつれて電車内の人は増えてきて、それでもなんとか電車を降りた時にはもう人だらけで。

「大丈夫?はぐれないようにしないとね」
「そうだね」
「抱っこも代わるよ」
「寝ちゃったしこのままの方がいいと思う」
「僕も抱っこしたいんだけどな」
「ふふ、また後でね」

なんて返事をしている間にも人が多くて貴澄の姿を見失いそうになってしまう。

早足で貴澄の元へと向かおうしても人に阻まれてしまって中々行けない。すると人混みの向こうからピンク色の髪がこちらに近付いてくるのが見えた。

「ごめん。人混みに流されちゃった」

眉を下げて笑う貴澄は軽く息が切れていた。

バスケをしてきた貴澄でさえも息が切れる人混みの恐ろしさを痛感しながら貴澄に近寄ろうとしたところ、誰かに背中を押された。押した人が悪いのではないし、立ち止まっていた私が、このどうしようもない人混みが悪い。

赤ちゃんだけは守らないととぎゅっと抱きしめたら「……危ない!」と声を上げた貴澄の胸に抱きとめられた。

「ごめん、貴澄。ありがとう」
「ううん、どういたしまして」

顔を見合わせてほっとしたのも束の間。

私と貴澄の間から、ふんぎゃあという大きな泣き声が聞こえた。

「……どうしよう貴澄、起きちゃった」
「じゃあ僕が抱っこするよ。……キミは着物、直した方がいいかも」

こそっと耳打ちをされたから2人で参道の端まで来てから自分の姿を確認する。

赤ちゃんを抱っこしていたからのか人混みでなのか、着物はヨレヨレで。はだけていないのが不幸中の幸いとでも言うべきか。

神社の賽銭箱がある所にもまだ辿り着いてもいないのにもう疲れた。

だけど、ほらパパだよ〜。眠い?もう1回寝る?と赤ちゃんをあやしつつ笑顔で話しかける貴澄を見ていたらそんな疲れもどこかへと飛んでいく。


「貴澄も着物がヨレヨレになってるよ」
「……わぉ、ホントだ。まだ着物で初詣は早かったみたいだね」

困ったように笑った貴澄と参道の脇で見つけた小さな神社でお参りをした。

来年は普通の服がいいかもねと笑う貴澄と、貴澄に抱っこされてすやすやと眠っている我が子の健康を願いながら。



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