*詰め/貴澄と過ごす年末年始 (鴫野貴澄)

[12月28日/仕事納め]

仕事納めの日は彼女とデートをする日。


お疲れ様。キミこそお疲れ様とお互いに労い合ってご飯を食べに行く。ただそれだけだけど、これをモチベーションに頑張ってきた。

仕事が終わると今年最後だというのに職場にきちんと別れを告げることなく足早に彼女の職場へと向かう。彼女の職場に着いてもどうやら僕の方が早かったらしくまだ人が出てきた気配はない。何気なしにスマホを開いて待てば、少しして彼女が同僚らしき人たちと共に出てきた。

お疲れ様です。良いお年をと律儀に頭を下げている彼女を眺めていたら、僕に気が付いた彼女はぱぁっと笑顔が花咲いた。

「今年も一年間お仕事お疲れ様。行こっか」
「貴澄もお疲れ様。頑張ってて偉いよ」
「君だって偉いしすごいよ」

貴澄こそ、キミこそと褒め合えば、あははと顔を見合わせ笑い合う。

僕が一年頑張れたのは君がいたからだから、そんな君と今年も一年無事に過ごせたことが本当に嬉しいんだ。ちゃんと言わないと伝わらないような気もしたけれど、そんな想いを込めて君と手を繋いだ。





[12月29日/夜更かし]

夜更かしすることが好きな私にとって、理由もなく夜更かししていられる年末年始は最高だ。

見放題の動画サービスではなくて、あえて貴澄と二人でDVDを借りに行って温かい飲み物を用意すると貴澄とくっついてうちのデッキで映画を観る。そんな些細なことが嬉しくて楽しい。

貴澄から伝わってくる体温は温かくて、真剣に映画を観ている貴澄の横顔がおかしくて。

「面白かったね、映画」
「僕のことばかり見てたのに?」

きょとんとこちらを見つめられて、ちゃんと映画も観てたよとおずおずと目を逸らせば、あははと貴澄が吹き出した。

「本当に映画も観てたから!」
「知ってるよ。最後の方とかちょっとうるっと来てたよね」

貴澄は悪戯っぽく笑うと三枚目のDVDを取り出して掲げた。

「次はこれにしない?」
「まだ観るの?」
「あれ?もう飽きちゃった?夜はまだまだこれからなのに」

時計を見るともうすぐ日付けが変わる所だったけれど、明日も一日お休みだからなと貴澄の提案に飛び乗った。





[12月30日/大掃除]

今年もあの日がやって来た。年末の大掃除の日が。

あれしてこれしてと一日慌ただしいはずが、いつの間にか脱線してしまうのはもう毎年のことで。写真で、物で、ふとした言葉で、想い出話に花が咲く。

「あー、サボってる人がいる〜!」
「……ごめん。写真見つけちゃって」

背中越しに降ってきた声にびくりと飛び上がる。すると何かを片付けるからなのか箱を持っていた貴澄が傍らに箱を置いたから代わりに写真を手渡した。

「わぁー、これキミがインスタントカメラにハマってた時のやつ?」
「そう、懐かしいよね」

ここ楽しかったね、あれ美味しかったねと指をさしつつ笑い合えば、今年一年の想い出で頭がいっぱいになる。

「そういえば最近はカメラ使ってないね?」
「ちょっと……飽きちゃって……」
「飽き性でもいいけど僕のことは飽きないで欲しいな」

少し自信なしげに眉を下げて笑った貴澄が愛おしくて。


「一生飽きないよ!」

貴澄の頭を抱きしめたら、僕だってそうだよと腕の中で貴澄が笑った。





[12月31日/年越し]

テレビからなのか家の外からなのか、遠くで除夜の鐘の音が聞こえる。今年も残すところあとわずか。やり残したことを今更やろうと足掻いたところでそんな時間も残っていない。

「こうやってのんびり迎える年越しもやっぱりいいもんだね」
「のんびりしすぎてて気が付いたらいつの間にか年が変わってそうだけどね」
「あはは、確かに」

みかんを剥いては口へと運ぶ。これ美味しいよ。僕のだって、と交換すると貴澄の甘い笑顔もついてきた。

「……あ、そうだ。今年もたくさんありがとうね」
「私の方こそありがとうだよ!」
「それじゃあ来年もよろしくってことで」

小指を差し出されて指切りをしていたら、ついていただけだったテレビから新年明けましておめでとうございますという声が聞こえた。

「途中で年明けちゃったね」
「じゃあ今年もよろしくってことでいいんじゃない?」
「そうだね」


一年の終わりにも始まりにも貴澄と触れ合っていられたから、なんだか更に良い一年になるような、そんな気がした。





[1月1日/年賀状]

「……これが僕で、こっちがキミの」

届いた年賀状を仕分けし終えて見ていたら、同級生から結婚しましたという文字が書かれた年賀状が届いているのを見つけた。そんな年賀状を見ていたら、尊敬してなのか羨ましくてなのか何なのかは全く分からないけれどどこからともなく感嘆の声が漏れる。

「わお、僕たちもうこんな歳なんだね」

僕の声が聞こえるとどうしたのと覗き込んできた彼女に年賀状を見せる。すると、あぁ、なるほどと理解したらしく自分宛の年賀状を僕にも見せてくれた。

「私の友達でも結婚してる子が何人かいるよ」
「そりゃ僕たちだって歳も取ったもんねぇ」

しみじみと呟けば、僕の隣でふふと彼女が笑った。笑う彼女のを横目に見ながら、出会った時と比べると大人っぽく綺麗になったなぁと思いながら年賀状をめくる。

……あー、この子はいつの間にか子供も出来てる。早いなぁ。幸せそうだなぁ。

「…………僕たちもそろそろかな」
「何が?」
「……あはは、色々とね」

こちらを振り向くと首を傾げた彼女に、また今度ちゃんと言うからその時にもう一度言わせてと急いで付け足したけれど、本当に何のこと?と不思議そうな表情を向けられて僕はもうはにかむことしか出来なかった。





[1月2日/お雑煮]

地域によって、見た目も味も全然違うお雑煮。

丸餅?角餅?お出汁はお味噌?お醤油?すまし汁?

私の地元の味とは違う、貴澄が慣れ親しんだお雑煮も、いつかは私にとっても当たり前になっているのだろうか。

「お餅、いくつにする?」
「……1、……やっぱり2個で!」
「本当にそれで後悔しない?」
「え、じゃあ三個にしようかな。…いややっぱりまたおかわりする!」
「ふふ、りょうか〜い」

返事をした貴澄は、鼻歌交じりで器にお雑煮をよそっている。二人並んで料理をすることにはもうすっかり慣れたはずなのにまだ少し照れくさくて。だけどお雑煮から立っている湯気みたいにあたたかく、どこかぼんやりともしている。

「僕の家のお雑煮は美味しいから覚悟して食べてね」

自慢げにお雑煮を手渡され、分かったとお雑煮を見つめてから顔を上げれば貴澄と目が合った。覚悟決めたよと笑うと、それじゃあ食べようかと笑い返してくれた貴澄と手を合わせて声も合わせる。


「「いただきます!」」

貴澄の家のお雑煮は想像以上の美味しさで、やっぱりおかわりしないと後悔してしまう気がした。

だけど貴澄が、明日はキミの家のお雑煮だ。楽しみだな〜と目を細めたから、食べ過ぎには気を付けようと誓った。だってきっとこれからも、このお雑煮を食べる機会は何度だってあるだろうから。





[1月3日/初詣]

今日もお休みだからと布団の中でダラダラしていたら、そういえば僕たち忘れてたねと突然貴澄が呟いた。

「……何か忘れてたっけ?」

だけど私はまだ半分くらい意識は夢の中で、頭が上手く働かない。しかしそんな私をよそに貴澄はスマホを取り出し、……う〜んと何やら悩んでいる。

何を忘れてるの?と眠い目を擦りながら貴澄を揺すれば、ほら、これ!とスマホの画面を向けられた。

「初詣、行ってないよね」
「……あ、忘れてた!」

困ったように笑う貴澄につられて眉をひそめて笑えば、貴澄がぴたりとくっついてきて一つのスマホを二人で覗き込む。


ここって有名な所だよね。でも遠いんじゃない?そっか〜。あ、ここはどう?いいかも! なんてやり取りを経て選んだ近くの神社。

もうお正月も三日目だからなのか私たち以外の人がいない静かな境内には、貴澄と私の笑顔と声が響いている。

「今年も貴澄といられますようにってお願いしないと」
「……お願いって言うと叶わなくなるって聞くけど言って良かったの?」
「いや!今のはナシで!」

あはは、もう遅いでしょ〜と貴澄はいつになく楽しそうに声を上げて笑っている。そしてひとしきり笑い終えれば私の顔を覗き込むなり、大丈夫だよと言ってやっぱり笑った。

「だって僕が絶対に叶えてみせるからさ。ついでにキミのこと、幸せにさせてね」

繋いだ手に力が込められると、貴澄の頬が赤く染まった。私の顔も熱くなった気がした。





[1月4日/仕事始め]

楽しい時間というものはいつだってあっという間に過ぎ去ってしまう。時間は誰にだって平等に与えられているものだからこそ、やって来た時間に逆らうことは出来なくて、今日からまたいつも通りの日常が始まる。

「貴澄〜行きたくないよ〜」
「えーそんなこと僕に言われても」

家から駅までだけの同じ通勤路。昨日まであれほど一緒にいたのに、仕事が始まったら夜と休みの日だけしか一緒にいられないなんて残念だけれど、これが日常というやつで。

「…まだまだ休みがいいね」
「夜更かし出来るから?」
「貴澄と一緒にずっといられるから、だよ」

唇を尖らせてあからさまに拗ねるキミが可愛くて、僕だって同じだよとすぐに伝えたかったけれど、キミが乗る電車がやって来て、それじゃあまた後で。行ってきますとキミは笑って僕の手からすり抜けていった。キミの後ろ姿を見送れば、空いた手が急に寒くなった気がして、それを誤魔化すためにスマホを手に取り、キミにメッセージを送った。

『帰り、迎えに行くから一緒に帰ろうよ』
『もちろん!これで今日も頑張れる!』

すぐさま送られてきた返事にはよく分からないスタンプもくっついて。だけどそれはキミが機嫌がいい時にいつも使うものだからそれを見た僕だって頑張れるような気がした。そのことに口角が上がったことを感じながら、僕もだよと再び送るとスマホをしまってから僕も電車に乗り込んだ。



[ 10/24 ]

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