カッコつけたい初デート (椎名旭)

新しい服に新しい靴。少しでも可愛いと思われたくて奮発して買ったそれらに身を包むと鞄を肩から掛けて、行ってきますと一人暮らしの部屋に告げてから玄関を飛び出した。

今日は旭くんと初デートの日。

ずっとずっと好きで告白をしたら、少し驚いた顔をした旭くんが照れながら、俺でよかったらよろしくなと笑ってくれた。すると旭くんははにかみながら、今度の土曜は練習休みなんだけどさ。お前も暇だったりする? と呟いた。予定も何もなかった私には断る理由なんてなんにもなくて、もちろん! と食い気味に答えたら、そっか。ならどっか行こうぜと旭くんの方から誘ってくれた。そんな、今日の初デート。


楽しみで楽しみで毎日カレンダーを見ながら過ごして、メイクも髪も頑張った。だからなのか待ち合わせ場所に着いても落ち着かなくて、どうしても旭くんの姿を探してしまう。キョロキョロと辺りを見回しては、この格好でおかしくないかな、ちゃんと可愛いかなって考えてみたりして。息を整えるために深呼吸をしていたら、悪い、待たせたか? という明るい声と旭くんの太陽みたいな笑顔が現れた。

「早いな、お前」
「旭くんも約束の時間よりも早いよ」
「だってめちゃくちゃ楽しみだったからな」

まるで私の気持ちを見透かしたような台詞を笑みと共に楽しげに零した旭くんは、次の瞬間には唇を尖らせた。

「……つーかさぁ、絶対にお前よりも早くに来て待ってんだって思ってたんだけどなぁ」

お前早くに来すぎ! とビシッと言われてしまい素直に謝れば、いや怒ってるとかじゃないからな? お前になんかあったら心配だろと旭くんがアタフタと手をバタつかせているから、その様子が可笑しくてつい笑ってしまう。

「ありがとう。これからは気をつけるね」
「おう! そうしてくれると助かる」

にっと笑った旭くんは、行こうぜと手のひらをこちらに見せる。そこに恐る恐る自分の手を重ねてみると、骨ばった手に包み込まれた。

人混みの中を旭くんはゆっくりと歩く。今日はそういう気分だからなのか、はたまた私の歩く速さに合わせてくれているからなのか。繋がれた手に時折視線をやりながら隣を歩く旭くんを見上げれば、ちょうどこちらを見てきた旭くんと目が合った。

「……なぁ、ところでどこ行くんだっけ?」
「あれ? どこだろ? そういえば決めてなかったね」
「こういう時は男がエスコートするもんだって言われたから歩いてみたんだけど、目的地がないとダメだよなぁ」

道の端に立ち止まると居心地が悪そうに分かりやすく落ち込んでいる旭くんが新鮮で。頭を撫でてみたくなったから背伸びをしてみたけれど、旭くんの頭には到底届かなくて。それを誤魔化すようにしてふと目に入った近くのカフェを指さした。

「あ! あそことかどうかな!? 飲み物飲みながらどこ行くか決めようよ」
「……それもそうだな! 行こうぜ」

すぐに立ち直った旭くんは、あそこまでだけでも俺がエスコートするからと少し照れくさそうに笑う。繋いでいた手に力が込められたような、そんな気がした。


「二人、なんすけど」

指で二を作った旭くんが店員さんにそう言うと、こちらどうぞと二人掛け席に案内された。

壁際と通路側。どちらに座る方がいいのかと思っていたら旭くんが口を開いた。

「お前はそっちの方がいいんじゃね?」
「なんで?」
「手、冷たいから寒いのかと思って。壁際の方が風は来ないだろ」

不思議そうに首を傾げた旭くんに、そうかもと笑いかけるとテーブルを通り越して壁際のソファの手前まで歩く。そして片手で鞄を下ろすとまだ繋がれたままの手へと視線を向けた。

「……あのー、旭くん」
「どうした? そっちも寒いのか?」
「それは大丈夫だけど。……あの、……手を離してくれないと座りにくくてですね……」
「はぁ!? 手……!? あ、悪い……!!」

旭くんが視線を落とすなり、繋がれていた手は勢いよく離される。それを少し残念に思いながら、嬉しかったからいいよと呟けば、そっかと旭くんが呟いた。聞こえてきた言葉に理解が追いつかなくて旭くんを見上げれば真っ赤になっていて、目が合うととにかく座ろうぜと言って笑った。


「何にする?」
「どうしよう……」

二人で一つのメニューを覗き込めば案外近くなるものだ。だから意識はそちらに注がれているはずなのに緊張しているからなのか、おでこ同士がぶつかった。お互いに謝れば、悪い。痛くなかったか? と旭くんが私のおでこを撫でたから鼓動が速くなる。触れられたおでこよりも顔の方が熱くて、大丈夫! とそそくさと言えば、テーブルに二つ並んでいた水のうちの一つを飲み干した。


「これとこれください」

メニューを指さして注文し終えた旭くんは、少し視線を泳がせた後に私を瞳へと映すと口を開いた。

「……俺の姉ちゃんも、カフェ? 喫茶店? やってんだ」
「えー! すごいね。行ってみたい!」
「じゃあ次のデートの時に来る?」
「行く! 行きたい!」
「おう、じゃあ決まりな」

旭くんが笑うと太陽みたいで心があたたかくなるから、今更ながら本当に旭くんは素敵な人だななんて改めて思う。だけどそんな素敵な旭くんには私以外にもきっと、想いを寄せている人がいたのだろう。

「旭くんはモテそうだね」
「そんなことないだろ。今日だっていっぱいいっぱいだったじゃん、俺ずっとさ。初デートだからって気合い入れすぎた」

眉を下げて笑う旭くんに、そういう所が素敵なのにと呟けば、なんだそれと笑われた。

「それよりも俺は、デートだからってオシャレして……その、俺とのデートのために……可愛く……してくれるお前の方が素敵だと思うけどな。……それに、お前にモテるなら俺はそれだけでいいし」

尻すぼみに言った旭くんを見ていたら、みるみるうちに顔が赤く染まっていって、少し視線を逸らされた。だけど旭くんは再びこちらに視線を戻すと、でもこんなんじゃカッコつかないよなと溜息をついて笑ったような気がした。

「……俺も、その、お前のことすっげー好きだから。カッコいい所を見せられるように頑張るから。また良かったらデートしてください!」

一言一言を大切に言葉にする旭くんにつられて、こちらこそと一言返事をするだけでとても緊張してしまう。だけど、よっしゃとガッツポーズをする旭くんを見て私まで嬉しくなったからそれでもいいような気がした。

先程とは違って手の届く高さにあるそんな旭くんの頭を今度こそ撫でてみる。すると、俺も撫でたいけどせっかくの髪をぐちゃぐちゃにするわけにもいかないしまた今度、と顔を赤く染めながら少し残念そうに笑った旭くんの手が空を切った。



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