いっぱい考えてしまう初デート (椎名旭)

「今日の天気は快晴で、暖かい一日になるでしょう」

へー、天気が良くて気温もそれほど寒くはないのか。なんて言うんだっけ、こういうの……。秋晴れ? あー、小春日和、か。春じゃないのに? 小春??

テレビから流れてくる天気予報を少したりとも聞き逃さないように耳を澄ましながら朝食をかき込む。そしたら昨日の夜に用意しといた服に着替えて、ワックスで髪をセットしてみたりして。

すると俺が鼻歌でも歌っていたのか、それともよっぽど顔がニヤついていたのか姉ちゃんが洗面所を覗き込んできた。

「随分楽しそうだけどどこ行くの? デート、とか?」
「ね、ねね、姉ちゃん! 別にそんなんじゃなくて、ただの学校の買い出し!!」
「なんだ。そーなの。デートかと思った」
「だーから違うって」

悪戯っぽく笑う姉ちゃんを洗面所から追い出せば、もう一度身だしなみを整える。

いやまあ別にこんなことしたってただの買い出しだし。んなこと分かってるし。あいつだってそんなこと思ってるはずがないし。でも確かに、休みの日に二人で会うんだから確かにデート、なのか……?

頭の中でぐるぐると同じことを何度も考えながら待ち合わせ場所のバス停に向かう。田舎特有の本数の少ないバスに乗る人は俺たち以外にもいるらしくて、少し離れた場所で彼女を待った。だけどその間にもやっぱり頭の中を巡るのは、デートなのかデートではないのか。

前から気になっていた女の子との買い出し。正直、やったと思ったし、天気予報がある度に毎回観ていたくらいには楽しみだった。でもだからといって、男と女が二人で出掛けるのが全部デートなのかと言えばそうではない気がする。ううーん……と頭をフル回転させていたら、旭くんと俺を呼ぶ声がして我に返った。

「…ごめ、遅くなった」

息を切らせて走ってきた彼女が隣に並ぶ。私服こんな感じなんだな、可愛い……な。いつもと雰囲気違うのは髪型が違うから? 彼女を上から下まで見ていたら、彼女が息を整えていた。だから俺もつられて息をというよりは頭をブンブン振って整えた。

「大丈夫。俺も今来たところ……あ!」
「どうかした?」

ようやく息が整ってきたらしい彼女に心配そうに顔を覗き込まれると、いや何もない大丈夫と首を横に振る。だけど頭の中では、デートでよく言うセリフ言っちゃった! デートかも分からないのに! とパニック状態で。

それでも、買うもののメモ持った? 大丈夫! となんとか話をしているうちにバスが来て、近くで待っていた人と一緒にバスに乗り込んだ。


「もう買い忘れないよな」
「えーっと……。うん、大丈夫!」
「じゃあ俺そっち持つ」
「重いよ?」
「だからじゃん。お前はこれ持って」

任命された買い出し係も、あとは帰るだけというところまでなんとか仕事を全うすると、荷物を抱えた彼女が壁に掛けられた時計を見るなり口を開いた。

「旭くんはまだ時間とお金と余裕ある?」
「俺は大丈夫だけど」
「それじゃあアイス食べてかない? ソフトクリーム!」
「え? いいけど」

ここの美味しいよね〜と眩しい笑顔の彼女に手を引かれ、色々なことを理解する間もなくフードコートにやって来た。バニラにチョコにストロベリー。膝に手をつきながら中腰になって色とりどりに並んだ食品サンプルに目を輝かせる彼女は言うまでもなく楽しそうだ。

「旭くんは何にする?」
「俺は……チョコ」
「チョコとストロベリーください!」
「まいどあり!」

店員のおばさんの威勢のいい声が響く。お金を払って店内をぼーっと眺めているとソフトクリームが形作られていった。

はい、チョコにストロベリーと手渡されたそれらを受け取って、声を合わせてお礼を言うと近くのベンチに腰掛けた。荷物を端に置いたから彼女との距離がやけに近くて緊張する。そういえば、バスの中でもこれくらいの距離感だったけど。

……あれ? 来る時って何話したっけ? 俺ちゃんと話せてたのか? とか。

美味しそうにソフトクリームを食べてる彼女の隣でソフトクリームどころではない俺。買い出しとは言えせっかく二人でいるのに色々と考えてしまっている時間がもったいなくて。

「……だぁぁー、っもう!」

頭をガシガシと掻いたらソフトクリームのコーンを口に押し込み、立ち上がる。

「ゲーセン行こうぜ」

行く! と立ち上がった彼女の手を今度は俺が引く。手がちっちゃいんだなってやっぱり考えてしまっているうちにゲーセンに着いて。俺に手を引かれてここまでやって来た彼女が、アザラシのぬいぐるみを見つけて可愛いねって指さして笑うから良い所を見せたくなってしまって。

「俺が取る!」
「すごい! 旭くんクレーンゲーム得意なの?」
「いやそんなこともねぇけど。多分、取れる……ような……?」

目を輝かせた彼女の瞳に俺の姿が映る。俺なら出来る。アザラシ取れるって言い聞かせてみたりして。ちらりと横目で彼女を見ると、俺以上に真剣にアザラシを見つめていた。それが可笑しくて、力が抜けた気がしてボタンを押す。ぎこちなく動くクレーンの先にはしっかりとアザラシが包み込まれ、下に落ちてきた。そしてガシャンという音を確認するなり目を見合わせて、やったと喜びを分かち合う。

「はい、アザラシ」
「本当にいいの? 旭くんが頑張って取ったのに」
「俺がお前に貰ってほしいからいいの!」

だから良かったら貰ってとアザラシを渡せば、幸せそうな顔をしたアザラシが彼女の腕に抱きしめられた。ありがとうと言った彼女もまたアザラシみたいに幸せそうに笑っていて、そんな彼女を見て俺まで嬉しくなった。

「……あ、荷物。俺持つよ」
「だいじょーぶ! 私も買い出し係だもん、ちゃんと持つよ」
「あ、じゃあ、アザラシを……」
「ふふ。大丈夫だよ。旭くん優しくて彼氏みたいだね」
「は……いやいや彼氏とかそんな……!!」

身振り手振りをつけながら否定をして、後退ってみたもののクレーンゲームの機械があちらこちらにあるから彼女から距離はとれない。だけどそんな俺になんて構わずに、彼女が近付いてくるから心臓が痛いくらいにバクバクとうるさい。

「……今日はデートだって楽しみにしてたんだよ。これが初デートなの」

背伸びをすると片手を俺の耳に当てた彼女は、耳元で囁くと顔を赤くして笑った。

「……俺も!」

その一言を口にするだけで精一杯だった俺には、彼女が笑っていると嬉しくなる理由も、近付かれると心臓がうるさくなる理由も、彼女の気持ちもまだまだ何も分からないけれど、彼女の笑う姿をもっとたくさん見たいことだけは確かで。今日のうちにもう少しだけでも笑ってくれたらいいのに、なんて心の中で思いながら彼女に笑顔を向けた。



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