*甘えたい合図 (鴫野貴澄)

「名前呼んで欲しいな」


それは貴澄が甘えたい時に言う言葉。お兄ちゃんだからなのか私が甘えたい時にはこれでもかってくらいに甘やかしてくれるのに、自分はどう甘えたらいいのかが今ひとつ分からないらしい貴澄が可愛くて愛おしい。

困ったように眉を下げながらこちらを見つめる貴澄に、そんな私の気持ちも伝わるかななんて想いも込めて見つめ返すと彼の名前を呼ぶ。

「……貴澄、」
「うん」
「好きだよ」
「僕もキミが好きだよ」

貴澄と呼んだはずの名前はいつの間にかキスしように変換されて、見つめ合っていた目はどちらからともなく閉じられると、次の瞬間には唇と唇が触れ合う。少しして離れた気配がしたから目を開ければ、照れ臭そうに笑った貴澄と目が合った。

あははと笑った貴澄が私の肩に自分の頭を預けてきたから頭を撫でてみたら、キミに頭を撫でてもらうの結構好きなんだと貴澄が呟いた。その言葉が嬉しくてもう一度頭を撫でると、貴澄は何故かどんどんと体重を掛けてくる。

「……重いよ〜、貴澄」
「えーそうかなぁ? 僕からキミへの愛に比べたらこんなのまだまだ軽いよ」
「なにそれ」

二人で笑い合えばふと目が合ってもう一度キスをした。

やっぱり照れ臭そうに笑った貴澄が可愛くて目を離せないでいたら、そんなに見られると照れちゃうんだけどなと頬を赤く染めた貴澄の顔が近付いてきて片手で私の両目を覆った。大好きだよと耳元で囁かれた言葉を、貴澄はどんな表情で言っているのだろうと想像したら今度は私が赤くなっているような、そんな気がした。



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