キミの特別な日 (鴫野貴澄)

「……あ! おはよう、お誕生日おめでとう〜!」


玄関を出たら飛び込んできたピンク色の髪と嬉しそうな笑顔。その笑顔もその言葉も彼自身のことではなくて、私に向けられていることが分かるとたちまちつられて笑顔になる。

「ありがとう、貴澄。嬉しい!」

笑顔で返したら、どういたしましてと眉を下げて笑った貴澄がゆっくりと歩き出したから隣に並ぶ。

「キミには直接おめでとうって言いたいなって思ったんだ。どう?僕が一番だった?」
「ん〜……まあ、家族を除けば」
「やっぱりキミの家族には適わないか」

一緒に住んでるんだし。そう付け足した貴澄はそれでも嬉しそうに笑っていて、なんとなく胸の辺りがじんわりとあたたかくなったような気がする。

私の歩く速さに合わせて今日もゆっくりと小さな歩幅で歩いてくれている貴澄のことを、なんだか楽しそうだなと思って見上げていたら、どうしたの? と貴澄が首を傾げた。

「貴澄が楽しそうだなと思ってさ」
「楽しいよ。だって、キミの誕生日だもん」

でしょ? ともう一度首を傾げて顔を覗き込んできた貴澄は、まるで自分のことのように目を細めて笑っている。
あ、そうだ。手繋ごうよと私の手を取りながら。当たり前のように絡ませられた手が嬉しくて、寒いはずの朝の空気なんていつの間にか気にならない。

「なんか貴澄ってもっとサプライズ〜! って感じでお祝いしてくれるのかと思ってた」
「えーなにそれ。僕ってどんなイメージ?」

ぶーぶーと効果音が付きそうなくらいに唇を尖らせている貴澄が可笑しくて笑ってしまえば、そんな私を愛おしそうに見つめる貴澄の目が優しくて擽ったいということに気が付いて思わず顔が熱くなる。パタパタと片手で顔を扇いでいたら、もう片方の繋いでいた手が貴澄の方へと引き寄せられた。

「放課後はデートしようね」
「あれ? 貴澄、部活は?」
「今日は休み。だからキミとデートがしたいなって」
「喜んで」

繋がれた手にどちらからともなくぎゅっと力がこもる。ふと貴澄を見上げたら目が合った貴澄が、あははと笑った。


「今日も明日もその先もずーっとキミが大好きだよ。生まれてきてくれてありがとう」

突然耳元で囁かれたその言葉に驚いて立ち止まってしまったら、にっとこちらを見て貴澄が悪戯っぽく笑った。可愛いなぁと揶揄うようにして呟いた貴澄は、本当に大好きだよともう一度呟くと少し頬を染めながらやっぱり嬉しそうに笑った。



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