*朝はいつもの会話から (水谷文貴)

教室に入ると鞄を置きに自分の席へと向かう。
それから、隣の席の女の子と話をするために。

「おはよー」

いつもは笑顔で挨拶を返してくれる彼女。だけど今日は何故かずっと窓の外を眺めているから挨拶が返ってこない。教室はそこまでうるさくないからオレの声は聞こえるはずだし、もしかして体調悪い……とか? なんて考えながら椅子をその子の席に少し近づけて座る。

「おはよー。どうかした? 体調悪いとか?」

するとオレの再びの挨拶に気付いたらしい彼女が、慌ててこちらへと振り向いた。

「あ、水谷くん! おはよう」
「体調悪いとかじゃない? 大丈夫?」
「うん、元気だよ?」
「そっか。よかったー!」

確かに、顔色は悪くない。でもいつもとどこか違うような……。

「……あ! 前髪切ったんだ?」
「水谷くん見ないで!」
「えぇ、なんでぇ!?」

突然そんなことを言われ、情けない声が漏れる。だけど彼女は慌てて前髪を押さえると、違うのごめんねと謝った。

「……切りすぎたから恥ずかしいの」
「そうだった?」
「そうなの」

そうバッサリと言い切られてしまったから、もう一度見せてとも言えず、先程の彼女を思い出してみる。だけど切りすぎていたようには感じない。というか寧ろ可愛かった。それに今こうして恥ずかしがっているところも可愛い。

「オレはそう思わなかったけどね」
「水谷くん優しい。そんなことないのに」
「本当だよー。それにそりゃ好きな子には優しくするよ!」

……あ……、しまった。どーしよう。言ってしまった。

だけどどうすることも出来ずにあたふたしていたら、ちょうどチャイムが鳴ったから慌てて付け加える。

「と、とにかくオレはそんなこと思ってないからね! というか可愛いと思ってる!!」

椅子を自分の席へと戻すと、すぐに先生がやって来たからほっとする。言い逃げなんてズルいけど。

ちらりと横を見ると、彼女は前髪を押さえることも忘れて耳が真っ赤になっていた。そんな彼女を見て、やっぱり可愛いとオレは思ったんだ。

休み時間になったらもう一度ちゃんと君が好きだって伝えるから。だから今だけはオレのせいで赤くなってる君の横顔を見させて。


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