*詰め/バレンタイン (三橋、阿部、沖、栄口、田島、巣山、水谷、泉、花井、西広、浜田、叶、高瀬、矢野、榛名、秋丸)

[三橋廉]
「三橋くん、いつも野球かっこいいです…。あの、応援してます!」他のクラスの女の子から呼び出されたから何だ?と思っていたら、そんな言葉と共にチョコを差し出された。だけどお母さんやルリ以外からチョコをもらうのは初めてで、どうしたらいいのか分からなくて、心臓はドキドキ言っている。「あり、が…とう。嬉しい、よ」チョコを受け取ると女の子の顔がぱぁぁっと明るくなった。……あ、笑ってる。かわいい、な。ぺこりとお辞儀をして去っていったその子の後ろ姿を見送ると、胸の辺りがあったかくなるのを感じた。これはなんなんだろう?チョコは甘かったはずだけどドキドキしてよく分からなかった。


[阿部隆也]
バレンタインになんか興味なかったけど今年は違う、というか今年は興味がないなんて言っていられそうにない。それは何故かというと彼女が出来たから。向こうから告白してきて、向こうから連絡が来る。オレも何かしてぇけどどうしていいのか分かんねぇ。そんな時ふと頭の中を過ぎる、彼女には優しくなーと野球部のヤツらに言われた言葉。…ンなこと言われても、優しくとかよく分かんねーよ!「チョコ、ありがとな」くしゃくしゃ、いや、ぐしゃぐしゃと彼女の頭を撫でると嬉しそうに彼女が笑う。なんだこれ、コイツのこんな顔が見られんならバレンタインも案外いいもんなんだなとか柄にもなくつい嬉しくなっちまうな。


[沖一利]
「沖くんて彼女いるの?」「いないよ」「好きな人は?」「好きな人もいないよ」なぜオレは今、こんなことを聞かれているのだろう。これはきっといわゆる恋バナというやつで、初恋もまだのオレには到底縁のないことのはずなのに。そんなことを考えながら隣の席の彼女から繰り出される質問に答えていく。すると彼女はオレの答えを聞いて安心したように笑った。「じゃあさ、沖くん。これもらってくれる?」そう言って手渡されたのは綺麗に包まれたチョコだった。受け取ったはいいけど驚いて固まってしまったオレに、彼女は赤くなりながら「…義理じゃないからね」と笑った。


[栄口勇人]
隣の席の栄口くんに勇気を出して聞いた「栄口くんって甘い物好き?」の一言。出来るだけ普通に、普段通りに聞こうと思ったのに声は上ずってしまって、恥ずかしくて顔を伏せてしまった。だけど栄口くんは、「ええ!?オレ!?」なんて自分を指差しながらあたふたと驚いているからそんな栄口くんにつられたのか自然と顔が上がる。それから栄口くんは一つ深呼吸をすると、真っ赤な顔で「甘い物、好きだよ」とにっこり笑った。栄口くんが好きなのは甘い物だって分かっているけど、彼の甘いその声でもう一度その甘い言葉を聞きたくて、私は彼に渡すためにと用意していたチョコをカバンから取り出した。


[田島悠一郎]
同じクラスの田島は人気者。勉強は出来ないけど、運動神経がよくて、前に野球の試合を観に行った時はすごくかっこよかった。そんな田島に用意したチョコ。だけど田島は色んな子からチョコをもらっていて。義理だよと田島にチョコを渡す子の中には本命の子だっているだろう。そんな中で私が渡してもその他大勢の一部に紛れてしまうに違いない、そう思った時に背後から聞こえた「お前はくれねーの?お前にもらえるの楽しみにしてたんだけど」という聞き慣れた田島の声。振り向くと笑顔の田島がいたから勢いでチョコを渡してしまったけど、その他大勢なんかじゃないと自惚れてしまってもいいのだろうか。


[巣山尚治]
不器用な彼女とは違って料理上手な彼氏の巣山がバレンタインだからと作ってきたガトーショコラ。それは巣山の手作りであるということを除いてもとても美味しいと彼女は思った。「巣山くんが料理上手なの彼女として悔しい!」「オレは料理作るの好きだからな」はは、と笑った巣山は、そう答えた後に何か思いついたらしく彼女の目をじっと見つめて言った。「それなら今度オレが料理教えるぞ」突然の巣山の提案に驚く彼女に、巣山が再び笑いかける。すると彼女はよろしくお願いしますと頭を下げた後、ふふと笑ってみせた。そんな彼女の笑顔にキュンと胸が締め付けられたように感じた巣山は、照れ隠しのために再び笑うことしか出来なかった。


[水谷文貴]
「水谷、甘い物好き?」「チョコいる?」「おう!好きだよ〜。もらっていいの?」「友チョコ余ったかんね」「余り物でごめんね」「えー、なんで!すっごく嬉しいよ?ありがとなぁ!」そんな成り行きでクラスの女の子たちからもらった余り物のチョコたち。だけど余り物とは言っても、可愛くラッピングがされていてどれもとても美味しそうだ。そしてそんなチョコの中にはあの子からのも紛れ込んでいるからどうしようもなく嬉しくなる。あの子は、今年は友達の分と余ったからとオレにくれた分しか用意していないって言っていたから安心だけど、来年は初めからオレ宛てのチョコもないかなぁ。そう考えながら頬張ったあの子からのチョコは、あの子みたいに優しい味がした。


[泉孝介]
「孝介、チョコどうぞ」「おう、どーもな」幼馴染の孝介にバレンタインにチョコをあげるようになって早十年。孝介は私の気持ちに気付いている様子なんてないから、きっと今年もお返しは孝介のお母さんが私にと買ってきてくれたお菓子なのだろう。まあそもそも私に気持ちを伝える勇気がないから仕方ないんだけど。そんなことを考えながら孝介に挨拶をすませ、自分の家に戻ろうとしたら孝介に引き止められた。「なあ、お前来月何ほしい?」ぽかんとする私を見ながら、孝介はホワイトデーだろと頭を掻いている。「キャンディーがほしい!」咄嗟に出たその言葉に孝介はいつも通り、おうと笑っているけど、意味も知らないだろう孝介にこんなこと言うのはズルいかもしれない、なんて。


[花井梓]
教科書を取り出そうと机の中に手を入れると覚えのない箱にコツンとぶつかった。今日の日付けから推測するにそれはチョコとしか思えなくて、ドキッと胸が高鳴る。恐る恐るその箱を取り出するとそれはやっぱりチョコらしい包みに覆われていて、『花井くんへ 野球応援しています』の文字も添えられていた。差出人はというと、同じクラスの女子生徒で。そいつの席へと目を向けるとバチッと目が合った。向こうが恥ずかしそうに笑うからオレもつられて笑ったけど、オレはちゃんと笑えてたのか?あー、こんなの授業に集中も出来ずにずっとアイツのことばっか考えちまうじゃねーか!!口元が緩まないように気を付けながらちゃんと授業受けられんのか!オレ!?


[西広辰太郎]
『西広くんは誰かにチョコもらう予定ある?』ノートの切れ端に手紙を書くことでやっと聞けたこの質問。本当は授業中にこんなことを聞くのは申し訳ないんだけど、誰にも会話を目撃されないだろうこんな時にしか聞けない。だけど西広くんはその手紙に『もらうよ』と付け足して返してくれて。そういう優しさが嬉しいけど、もらう人いるんだと泣きそうになってしまう。だけど半分ヤケクソで『誰に?』ともう一度聞いてみると、次に返ってきた手紙に書かれていたのは『妹』の文字。胸を撫で下ろしながら西広くんを見ると笑っていて、してやられたとは思うけどその笑顔にまた好きが積み重なるんだよ。私の好きを詰め込んだチョコを渡したら、西広くんはいったいどんな顔をするの。


[浜田良郎]
去年は同級生だった男の子が今年は下級生になった。学年が違うと案外話せないもので、彼の笑顔も最近は見ていない。久々に話がしたくて、笑顔が見たくて、口実にとチョコを片手に彼のクラスへとやって来た。「はまだー」名前を呼ぶと見慣れた金髪頭が振り向くなり、嬉しそうにこちらへと走ってきた。「久々じゃん!どうしたの?」「浜田にこれ渡したくて」「へ」「チョコ」「…あ、あー!ありがとな」真っ赤になってチョコを受け取る浜田からはキケンな香りはやはり感じない。久々に浜田と話せていることがとても嬉しい私は笑顔も隠せずに浜田に告げる。「それに浜田と話したくて」「…オレも」照れつつも笑う浜田の笑顔に私は幸せな気持ちでいっぱいになった。


[叶修悟]
野球をする叶はかっこよくて、笑っている叶は可愛い。バレンタインというイベントに力を借りたら長年の片想いだって伝わるんじゃないかと思い、叶にチョコを渡そうと決めた私は、野球部員たちの中から叶を見つけると彼の名前を呼んだ。叶は他の部員たちに手を振るとこっちに来てくれたのに中々言葉が出ない。「お前こんな時間まで何してんの?」「えっとね、叶に…」「…なんかよくわかんねーけど送ってく。帰るぞ」一人でテンパっている私なんて気にせずに叶は私の歩幅に合わせて歩く。「やっぱり叶が好きだな」そう思っただけのはずの言葉は口から出ていたらしく、叶が真っ赤な顔で振り向いた。だけど叶のそういうところも大好きなんだ、と叶にチョコを渡す。「…あ、また赤くなった。


[高瀬準太]
朝っぱらから準太が嫌味なくらいチョコをもらっている。でもそりゃそうだよなぁ、野球部のエースだもん。モテないわけがない。なんて考えながら自分の席に座り、カバンを覗き込むと行き場を失ったチョコが見えた。「…これどうしよう」ふと呟くと、どうかしたのか?と準太が心配そうに覗き込んできた。何もないよ!と慌ててカバンを隠したけど遅かったようで、チョコ、誰かにやるの?と準太に問いかけられた。「違うよ、友達と買ったはいいけど渡す人いないの」「じゃあオレがもらってもいいか?」準太に渡したくて、とは言えずに嘘をついたのに、チョコは準太の元へと渡った。喜ぶ準太を見ると素直じゃない自分が恥ずかしくなった。


[矢野淳]
『淳くん元気?』『元気。つーか昨日電話しただろ』『だって話したかったんだもん』彼女からのメールに返信をする。正直、よくもまあこんだけ野球漬けのヤツなんかと付き合ってくれんなと我ながら思う。だけど試合の度に応援しに来てくれんのはやっぱり嬉しいし、かっけー所を見せたいとも思った。そんな野球も一段落つき、一足先に進学先も決まったオレは彼女も無事合格するよう信じるばかりだ。『お前勉強は?』『今は息抜き』『今度チョコでも差し入れてやっから無理すんなよ』『え、淳くんバレンタインだって気付いてた?』『いや?』『チョコ作れなかったから大学受かったら作ろうと思ってたの』その言葉につい口元が緩む。んなことしなくても、お前が大学受かったらオレはそれだけで嬉しいけどな、なんてな。


[榛名元希]
彼女が夕方の寒さに負けないよう帰路を急いでいたら、榛名と出くわした、というよりも彼女を待っていたらしい榛名がやって来た。「よぉ、」「あれ?今帰り?」「おう」榛名と話をしながら歩く彼女は先程よりも歩く速さは多少遅くなったようだが、それでもまだ速い。「なんか急いでんのか?」「うん」「…今日ってよー、」「バレンタインでしょ?」その言葉に榛名の動きが一瞬止まる。そんな榛名に気付いた彼女はにっと笑った。「だから急いでるの。榛名にチョコ作らないとでしょ。渡すの明日になるけど貰ってくれる?」「当ったり前だろ!」そう笑顔で答えた榛名は彼女を家まで送り届けると、明日の練習も頑張ろうと心に決めて軽やかな足取りで自分の家へと帰っていった。


[秋丸恭平]
朝、今日の一限目なんだっけ…と靴を履き替えていたら、いきなり女の子が目の前に現れて「秋丸くん、これ!」とオレに何かを渡してきた。「ん?何これ?」「…チョコです」「チョコ…」赤い顔のその子を見たらすぐにピンと来た。「あぁ!今日ってバレンタインだもんね。分かった、榛名に渡しとくよ」チョコを受け取るとひとまずカバンにしまう。榛名って見てくれはいいからなー、なんやかんやで毎年チョコもらってないっけ? そんなことを考えていたら、その子に腕を引かれた。「あれ?どうしたの?」「それ、秋丸くんにです」「え?オレ!?」コクンと女の子は頷く。表情からして冗談ではないだろう。カバンにしまったチョコと目が合うと顔が熱くなったのを感じた。


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