好きなのは眉が下がったその笑顔 (栄口勇人)
栄口くんのいい所は、栄口くんの家族の次くらいには知っているつもり。
だから栄口くんのどこが好きかと聞かれたら、私は迷わず「全部!」と答えるだろう。
◇◇
「前から思ってたけど本当に栄口のこと好きだよね」
「うん、だって栄口くんは素敵だから」
仲の良い友達との雑談、というよりは一方的な惚気け。
迷わず答える私に圧倒されることもなく、確かにそうかもだけどと呟く彼女はさすがは私の友達といったところだろうか。
「やっぱり分かる? 栄口くんの素敵な所」
「まあ、なんとなく? 話を聞いているからかもだけど」
例えば!? と身を乗り出せば、落ち着けとでも言わんばかりに彼女が眉を下げて笑った。
栄口くんと同じ、眉が下がった笑顔。私はこの笑顔が大好きで、友達である彼女の笑顔もいいのだけれど、それ以上に、栄口くんのこの笑顔を見る度に胸がきゅっと締めつけられる。
「あれでしょ? 笑顔がいい、優しい、しっかりしてる、面倒見がいい、かっこいい……とかそういうの」
指を折りながらそう言った彼女は、合ってるでしょと自信ありげに笑った。
「そうそう。あとは、気配り上手だったり意外と策士だったり、そういう所とかね。まあ、もっといっぱいあるんだけど!」
「なるほど〜。本当に好きなんだね」
「うん、栄口くんが大好き!」
えへへと少し照れくさくなって笑えば、一緒に笑っていた彼女が突然ハッとして後ろ後ろと口をパクパクさせているから、なんだろうと振り向く。するとそこには先程教室から出ていったはずの栄口くんが立っていて、顔を真っ赤にさせながら固まっていた。
「……栄口くん?」
顔を覗き込めば、目が合った栄口くんが居心地が悪そうに視線を逸らすと横を見ながら口を開いた。
「君がオレのことを好きだと思ってくれてるのは、その……分かってるんだけどさ、教室で話されると恥ずかしいんだけど」
つっかえながらも一息で言い切った栄口くんは、はふっと息を吐いている。
「……嫌だった?」
「そ、そういうわけじゃないけど、全然」
真っ赤な顔で手をばたつかせる栄口くんに、分かったと返事をしたら、よかったと栄口くんの表情が緩んだ。そんな栄口くんを見ていたらやっぱり胸が締めつけられて、いてもたってもいられなくなる。
「栄口くん、こっち」
「へ? どこ行くの?」
また後でと友達に告げて、栄口くんの腕を引っ張って廊下の端っこまで来ると、くるっと彼に向き直る。
「栄口くんのその笑顔が好き」
「……え」
目を見開くと再び顔を真っ赤にしている栄口くんを真っ直ぐ見ながら続ける。
「顔を赤くさせながら眉が下がってるその笑顔が好き」
「そっか。……あんがと」
今度は視線を逸らすことなくこちらを見ている栄口くんの眉は下がっていて優しく微笑んでいる。
「大好きだよ、栄口くん」
「……うん、オレも。……でも、教室じゃなかったらいいってことでもなかったんだけどなァ」
そう呟いて困ったように笑う栄口くんの口元は閉じられてはいるものの、緩んでいてとても可愛かった。栄口くんのいい所をまた一つ知れてもっともっと好きになった。
──どうやら栄口くんの笑顔は不思議な力を秘めているようだ。
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