*ポッキーの日 (栄口勇人)

ポキン、ポキンという小気味のよい音が放課後の教室に広がる。その音を立てているのは勉強をするという名目で教室に残っている彼女だ。

「あれ? 勉強はどうしたの?」

部活のミーティングが終わって帰ろうかと思った時に忘れ物に気が付いた。
明日提出の課題だったから取りに行かないわけにもいかず、じゃあまた明日とみんなに手を振ると向かった教室で、彼女が教科書を広げながらポッキーを食べていたのだ。そういえば今日は勉強するんだって話していたのを思い出して投げかけたのが先程の質問。だけど突然かけられた声に驚くこともなく、彼女はこちらを振り向いた。

「ちょっと休憩」

ふふっと笑うと彼女は再びポッキーを口へと運ぶ。そうなんだとだけ返すと息を吸い直して自分の席へと向かう。隣の席である彼女の周りには甘いチョコの香りが漂っていた。

「栄口くんも食べる? もうひと袋あるんだ」
「……へ? オレ?」
「うん。だって今日はミーティングだけだって言ってたから部活はもう終わったんじゃないの?」
「……そうだけど」

尻すぼみに呟いて、カレンダーで今日の日付を見る。11月11日、ポッキーの日。だからなんだって言われたらそれまでなんだけどちょっと意識してしまったりもして。えっと……、と返事に困っていたら彼女が笑った。

「ポッキーひと袋分、良かったら話し相手になってよ」

彼女の髪が夕日に照らされていてキラキラととても綺麗で。きっとオレ以外の人はあまり見たことがない彼女のその姿をもっと目に焼き付けたいと思った。

「オレで良かったら喜んで」

そう言って笑い返せば、オレも席に座った。

もしも彼女の目に、オレの顔が赤く映っていたのならそれはきっと夕日のせいだけではないのだろうな、なんて思いながら。


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