*二人きりの部屋 (阿部隆也)

彼女んちに行くことになった。
今日はアイツんちで過ごすらしい。


「ちわ。お邪魔します」
「あ、今ね、誰もいないの」
「は?」

そのたった一言に緊張する。しかしコイツはそんな素振りは全く見せずに、何する?と楽しそうに笑う。

面白い映画があるのと薦められた映画も、この動画に出てくる犬が可愛いのと見せられた動画も、ちゃんと見ているはずなのに何も頭になんて入ってこない。

二人きりだと分かって緊張する、そんなのはオレだけなのかよ。

「なぁ」
「どうしたの?」
「……緊張、しねーの?」
「……してるよ」
「だっていつも通りだろ、お前」
「いつも通りに見えるように頑張ってるもん。…阿部くんは?」
「オレが何?」
「阿部くんは緊張してる?」
「……そりゃお前と二人きりだもん。緊張するに決まってるだろ。言わなくても分かれよ」

……くそ、ダセェな。コイツの前で、ンなこと言っちまうなんて。

そう思い、顔を逸らすと視線の端で顔を赤くしている、彼女が見えた。


「顔、赤いぞ」

さっきまでの緊張はどこへやら。余裕が出てきたオレはにやりと笑うと、彼女の腕を掴んでキスをした。すると更に真っ赤になった彼女に、可愛いなと呟いてもう一度キスをした。



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