食事

「あ、赤司、ここ私入ってもいいのかな…?!」
「もちろんです。ドレスコードもありませんしマナーも強制ではありませんよ」

連れられて来たお店はホテルの最上階にあるいかにも高そうなレストランだった。
ホテル自体も格式が高そうだし、さすが名家の長男だなぁ。

「予約していた赤司です」
「お待ちしておりました、赤司様。こちらへどうぞ」

赤司は受付のお兄さんと少し話をしていて、内容を盗み聞くとどうもかつては常連だったようだ。
私なんて一生のうちに一度来られるかどうかというほどなのに、この坊ちゃんめ。

なんてことを考えながらも緊張覚めやらず、入り口付近で赤司の様子を見守る。
場違い感に苛まれながら待っていたら赤司がこちらに歩いてきて、先ほどと同様に私の手を取り席までエスコートしてくれた。

メニューを見ると意外と品揃えは普通のもので、ごく庶民の私でも知っているようなラインナップだった。
…値段は書いてないけど。

「何にしますか?」
「えっと…、赤司のオススメで!」
「わかりました。魚でいいですよね」

赤司が注文を聞いてくれたのでメニューを見たけど決められず、申し訳ないけれど彼にお任せすることにした。
魚で、と言われて、確かに魚が食べたいと思っていたところではあったが心を読まれた気分になってちょっとむず痒い。
店員を呼んで、するすると注文を済ませる赤司はまるで年下とは思えないほどにしっかりしていて、なんだかちょっと情けない気持ちになった。

「母が生きていた時はよく利用していたんです」
「そうだったんだ。なんかほんと、私なんかじゃなくてもっと良い人連れてきたほうが…」
「なまえ先輩以外、一緒に出かけたいと思う女性はいないので」

と、まぁあっさりと甘い言葉を吐かれてなおの事居た堪れなくなる。
でも誘ってくれたのにいつまでもこんな態度じゃ赤司にも悪いよね。
きょろきょろと周りを見渡してみても、確かにラフな格好の人が多いし意外とリーズナブルなのかも…?

そんなことを考えていたら料理がやってきて、目の前にサラダとムニエル(らしきもの)とライスが並ぶ。
赤司の前にはパエリア?ピラフ?みたいなのが置かれていた。

「おいしそう!」
「オレが一番好きなメニューです。まだ有ってよかった」

柔らかく微笑む赤司の顔があまりにも綺麗だったので、少し恥ずかしくなってそそくさとフォークを握る。
いただきます、と呟いてから一口料理を口に運べば、柔らかく仕上げられた魚の身がふわりと口の中でとけた。おいしい。

「すごいおいしいよ、赤司!」
「それはよかった」
「赤司のそれは何?」
「パエリアですよ。どうぞ」

と、自然な仕草で、一口分のパエリアが乗せられたスプーンを差し出してきた。
受け取ろうと手を伸ばしたけど逃げられてしまって、赤司の方を見ると微笑み返されたので意図を理解した。

どうぞ、ともう一度言われて、恥ずかしさに目を伏せながらも口を開けてテーブルに身を乗り出す。
そっと口にスプーンを運んでくれたので咥えると、魚介の風味が口いっぱいに広がった。

「どうです?」
「お、おいしいよ、ありがとう」

そう返したものの、正直味わうどころではない。絶対顔赤いわ私…。
そもそも赤司が使っていたスプーンだったとはいえ、そのスプーンで何事もなかったかのようにパエリアを食べ進めるのを見てこっちが恥ずかしくなった。


そんなこんなでデザートまで食べ終えて、(パンナコッタだった。おいしかった。)お手洗いに行って戻ってきたら会計を済まされてしまっていたので慌てて財布を取り出す。
しかしその手をそっと制されて、デートで男が会計をするのは当たり前でしょう?と言われてしまった。



(けど、赤司の気持ちには応えられないよ)
(少しでも、オレを意識してくれたらそれでいい)

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