去年
去年、私と黛が別れた時。それはそれは玲央に迷惑をかけてしまった。
黛から別れを切り出されたのだが、淡泊な性格だった私はあっさりその言葉を受け入れ、二人の関係はあっけなく幕を閉じた。
ただ、まぁ、多少なりとも"好き"という感情があったわけで。
何かしたのかな、とか、嫌われるようなことしたかなとか、ぐずぐずと玲央にほぼ毎日愚痴っていた。
部活で顔を合わせようものなら気まずくて逃げるようなことをしては先輩たちに怒られたことを思い出す。
他の人も、当然見ていて気持ちの良いものではなかっただろう。
それを間近で見ていた玲央なら尚更不快だったに違いない。
三年になって赤司が入部してきて、人が変わったみたいな赤司の様子に驚きつつも黛のことを吹っ切ってマネージャー業に打ち込んで。
一度黛がバスケ部を辞めて戻ってきた時には、気持ちの整理もついていて前のように趣味の話をするくらいにまでなっていた。
桃井に聞いた所によると、赤司は私がいたから洛山に決めたとの事。
そんな不純な理由で進路を決めるなとは思いつつも、後輩から慕われるというのは悪い気はしない。
今思えばあれも、危なっかしい私を見守るためみたいな意図があったんだろうな。
ちなみに黄瀬も洛山に来たかったそうだが、学力的に諦めて海常にしたらしい。不純すぎるよ、キセキの世代。
ぼーっとそんな昔のことを思い返していたら、ラインの通知音が鳴ったので身体を起こして内容を確認する。
"もう帰ってるか?"
送信者は黛で、いつも通り短いメッセージだった。
家にいるよ、と、こちらも短文で返すと少ししてインターホンが鳴る。
のそりと身体を起こして応答するとカメラの先に黛がいたので、何も言わずに開錠した。
今日は大活躍だね、インターホンくん。
「悪いな、こんな時間に」
「いいよ。宿見つかんなかった?」
「…そうだな」
少し苦笑交じりに微笑まれたので微笑み返して迎え入れる。
実は黄瀬が今朝言っていたことは間違いではないのだ。
ホテルに泊まると言った黛の言葉も嘘ではなくて、私が家を空ける時はどこかに泊まる、としているだけ。
「赤司さ、しばらくこっちにいるんだって」
「ご愁傷様」
「だからって何かあるわけじゃないでしょ」
「あいつのことだからここに来たりしそうだけどな」
「あぁ…ありそう。まぁ春休みの間だけでしょ」
他愛ない会話をしながら、今朝から出しっぱなしになっていた布団を整える。
あくまでも友達と思っているのに、シャワー借りるぞ、と言われてなんだか付き合ってるみたいだとか想像してしまい一気に恥ずかしくなった。
これも全部玲央のせいだ…。
再度あのオネエに恨みを込めて、部屋着に着替えてからベッドに寝転んだ。
(…同じ部屋かよ)
(え?昨日もそうだったじゃん)
(本当にお前は…)
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