涕涙

黒子と二人きりになるのは少し気が引けてしまったが、送ってくれるという厚意を無下には出来ない。

「そんなに警戒しないでください、何もしませんよ」

一定の距離を空けて歩いていたら、困ったようにそう言われてしまった。
赤司もそうだったけど、私ってもしかしてすごくわかりやすいんだろうか。

赤司が心を読むのに長けてるとかじゃないんだろうなぁ…。
黛もそうだったけど、桃井とか黄瀬とかにさえ図星を当てられることが多いし…。

「二人きりと言っても外なので、さすがに。それよりさっきはうちの火神くんがすみませんでした」
「あぁ、いや…私の気持ちの問題だから」

なんで黒子が謝るんだと思いつつ、弁明したら首を傾げられたので事情を話すことにした。
あんまりこういう話を後輩…しかも黒子相手にするものじゃないと思っていたけど、ここまで来て話さないわけにもいかない。

「まぁ…中高6年間のうち、初めての敗北だったし。赤司たちが泣いてて、なんて言葉をかけたらいいかわからない自分が嫌だったの。火神くんや誠凛の子がどうとかじゃないわ」

だから火神くんに苛立つのは筋違いなんだけどね。
そう言ったら申し訳ないような、悲しそうな表情をされてしまった。

とはいえ、忘れられてたのはさすがに腹立ったけど。
自嘲気味に笑って見せたら、私よりも上にある黒子の大きな瞳が真っ直ぐこちらを見つめてきた。

「すみません先輩。今すごく抱きしめたくなりました」
「なんでよ」
「抱きしめてもいいですか」

強い瞳で見つめられて、首を横に振る事が出来ずにいるとそれを肯定と捉えたのか腕を引かれて黒子の腕の中に納まってしまった。

冬も終わりに近づいているというのにまだ冷たい風に曝されていた身体が、黒子の体温で温められていく。

バスケ部にしては小さい身体も私よりははるかに大きくて、その温もりに気持ちが緩んだのか涙が溢れてしまった。
黒子のジャージに私の涙が吸い取られて色が変わる。

「…何もしないって言ったのに」
「すみません」

その後は、ただ、泣いた。
二つも年下の男の子の腕の中で、縋りつくように、責めるように。

黒子の優しさに付け込んで、好意に応えるわけでもないのにつくづく私は卑怯な女だ。



(ごめんね、黒子)
(僕は嬉しいです。だから謝らないで下さい)
(…ありがとう)

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