密会

大学での用事を終え、さっさと帰宅しようと思っていたのに黄瀬から連絡が入ってしまった。

練習の後に会いたい、との事だったので、少しだけという約束で合流することになった。
先日桃井に教えてもらったカフェで時間を潰そう。
えっと、確かこっちだったよね。

適当に飲み物とケーキを頼んで、約束の時間が近づいてきたので店を出る。
駅前の広場で待っていたがなかなか来ないのでスマホをいじっていたら、見知らぬ男二人組に声をかけられた。

「さっきカフェにいた子っしょ?」
「一人?オレらと遊びにいこーよ」

時代遅れなナンパもあったものだ、とか内心では感心しつつ、そのお誘いを丁重に無視していたら彼らの癇に障ったようで腕を掴まれた。
痛いしめんどくさい、と、その手を振り払おうとしたけどびくともしないのでそのまま引っ張られる。

黄瀬早く来なさいよバカ、とか念じていたら、やっと黄色い頭が見えた。

「ちょっとちょっと、その人オレのなんで手ぇ放してくんない?」

駅の出口から全力で走ってくるのが見えていたのに、息を全く乱していない所はさすがと言えるだろう。
舌打ちと共に腕が解放されたので黄瀬に近づけば二人組は特に何かし返してくることもなく去って行った。

「黄瀬のじゃないけどありがとう」
「いやむしろ遅くなっちゃってごめんッス…行きましょ?」

遅れた理由はファンの子に囲まれたかららしいし、仕方ないから許そう。
ご自慢のモデルスマイルを向けてくる黄瀬に連れられて、たどり着いたのは以前桃井と来たゲーセンだった。

その時に撮ったプリクラが大層羨ましかったらしく、どうしても撮りたいと言うので渋々ながらも受け入れる。
黄瀬が遅れたのが原因とはいえ、助けてもらった恩があるし。

「桃井みたいに言いふらさないでよ?」
「しないッスよ、そんなことしたら赤司っちに殺される!」

昨今の若者はどうしてこんなシールごときを撮りたがるのか理解できないが、お礼になるならいいか。
二枚のうちの一つを手帳に挟み、やけに嬉しそうにしている黄瀬を見て微笑んだ。

中学時代、黄瀬と過ごしたことは当然ながら皆無だ。
一年生にモデルがいるということで噂は聞いていたが、モデルだからなんだって感じだったし。

OGとして様子を見に行った時にやけに懐かれてしまって、連絡先を交換してからはよくやり取りをしていた。
他の後輩よりラインした回数は多いかもしれない。桃井の次に。

「オレと先輩のヒミツッスね」

そう言って笑いかけてくる黄瀬の顔は確かに整っているし、普通の女子ならキャーキャー言うのも無理はない。
私は言わないけど、と思ってしまう辺り女子力の低さが現れてるなぁ…。

「楽しかったッスー!」
「私も。黄瀬たくさん取ったねぇ」

ゲーセンを出てマジバに立ち寄り、黄瀬が取ったクレーンゲームの景品を見る。
キャラクターもののぬいぐるみがたくさんだ。

「先輩ちょっと元気ないみたいだったし、良かったッス」

黄瀬は普段おちゃらけているけど、たまにこうやって気遣いをしてくれる。
それが嬉しいと思ってしまうのは、きっと黄瀬が他のみんなと違って黄瀬は後輩って意識ではないからなのかもしれない。

「あれ?黄瀬じゃねぇか」

犬のように笑いかけてくる黄瀬にお礼の言葉を述べたところで、聞きなれない声が黄瀬の名前を呼んだ。
振り向くとトレイにハンバーガーを大量に積んだ、つい数か月前に私のチームを負かした学校のエースの姿があった。

「火神っち!偶然ッスね」
「今練習終わったんだよ。つーか、デート中?」
「違います」

すぐさま火神くんの発言を否定したのは、私ではなく火神くんの後ろの人物だった。
まぁ、そうよね。いるわよね…。

「どうも、黄瀬くん。…みょうじ先輩」

寝不足の原因の半分である黒子の顔を直視できず、つい顔を背けてしまった。
そんな様子を知ってか知らずか、黒子同席を希望してきやがったのでお断りしようとしたものの黄瀬が"もちろんいいッスよ!"とか快諾していたから叩いてやろうかと思った事は内緒だ。



(まさか黄瀬くんが抜け駆けするとは思いませんでした)
(ちょ、誤解ッスよ!)
(赤司くんに報告ですね)
(やめてー!)


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