妖怪

喧しく鳴り響くアラームで目を覚ます。

今日は大学に用事があるので、久しぶりにアラームを設定していたのだ。
重たい身体を引き摺って洗面所に行けば、ひどいクマを目の下に飼育している自らの顔と対面する。

結局昨夜はなかなか寝付くことが出来ずこの有様だ。
黛がいなくてよかった、絶対からかわれていただろう。

昼までには用事を済ませたかったので、さっさと準備して家を出る。
化粧で多少はクマも隠れたが、ひどい顔には変わりない。

「なんや、みょうじやん。…って、今日はまたひどい顔しとんなぁ」

電車に揺られて数分、途中の駅でまたしても今吉に遭遇した。
どうやらこの駅に今吉の家があるらしい。にしてもよく偶然が重なるものだ。

「昨日寝れなくて…」
「赤司となんかあったんかー?」

けらけらとからかうようにしているものの、図星を言い当てられて動きが止まる。
流石サトリと言ったところだ。

「黛と付き合うてへんのやったら、赤司とくっついたらええのに」
「付き合うとかそういうんじゃないし…」
「年下やからか?んじゃ黒子も可哀想やなぁ」

…こいつ私の家に盗聴器でも仕掛けてるんじゃなかろうな?
いや、昔から今吉はこうだった。

彼氏がいるって話も、自ら伝えたのではなく見抜かれてしまったから。
あの時は黛はスタメンでもレギュラーでもなかったし、一緒に居る所を見られたわけでもないのによくわかったなと当時はひどく驚かされたのを思い出す。

帝光中バスケ部に所属していた、というだけで、高校での扱いは特殊だった。
マネージャーってだけなのにそのマネジメント業が何か特別なのではないかとかで、一年であるにも関わらずマネージャーの中でかなり意見を聞かれる立ち位置にされてあの頃は苦労した。

今吉たちと仲良くなったのは何がきっかけだったか。
中学の時から名前を噂で聞いたり、顔を合わせたりはしていたけど一年のインターハイの時に桐皇と当たって、今吉から話しかけられて以降他校の選手とも話す機会が増えた気がする。

「単純にあの子たちは、先輩に対するあこがれみたいなものでしょ」
「いやぁ…その考えはさすがにあいつら不憫すぎるで…」
「同じ部活の先輩って憧れるものだし。私も一年の時はそういうのあったしさ」

女子は特にそうよね、と笑ってみせるが、今吉は納得していないようだった。
何か間違ってるとでも言いたげだ。

「それでみょうじが後悔する事にならんかったらええけどな」

と苦笑されたところで、大学の駅に着いてしまった。
大丈夫だよ、と笑って返して電車を降りる。

そう、大丈夫。大丈夫…。
自分に言い聞かせるように心の中で唱えながら、階段を降りて改札を出た。



(純粋なのか、無知なのか)
(…いずれにしても、赤司たちを応援したくなるなぁ)


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