遭遇

紫原を見送って帰る途中、黛からラインが来ていた。

今日もホテル、だけの簡素な内容。
なんだろう、避けられてるのかな…とか考えながらも、だからといって帰ってきてとは言えない立場なので"わかった"と返す。

スーパーに寄って帰路を辿っていたら、コートのポケットの中からけたたましい着信音が鳴り響いてきた。
慌てて取り出せばモニターには普段ほとんどこちらからしかコンタクトを取る事がない相手からだった。
え、珍しい。

「どうしたの玲央」
『寂しかったから電話しちゃった、なんてね。今大丈夫だったかしら?』

昨日私が入ったことの意趣返しをされてちょっと恥ずかしくなる。
大丈夫だよ、と返したら、よかった、と安心した声が返ってきた。

『どうせ今日もかけてくるつもりだったんでしょ』

さすが、良くわかっていらっしゃる。
特に何かあったわけではないが、玲央と話していると安心するというのもあってつい電話してしまうんだ。

軽く談笑をしていたらマンションが見えて来たので、キーケースを取ろうとポケットに手を入れる。
すると前方から、この暗がりの中でもわかるほどの赤い髪がこちらに歩いてきているのが見えた。

「…赤司?」
『え?征ちゃんがどうしたの?』
「いや、赤司が…」

いる、と、電話の向こうの玲央に伝えようとしたところで、赤司もこちらに気付いたらしい。
片手を上げてこちらに向かって来るので、私もスマホを持っていない方の手で応えた。

『あらあら、じゃあ私はお邪魔かしらね』

くすくすと楽しそうに笑う玲央の声を聞きながら赤司を見て、どうしているの?という意味を込めて首を傾げてみた。

「会いたくなったので。っと、電話中ですか?」
「あ、うん。玲央と」
『ちょ、なまえさんバカ!』

正直に電話相手の名前を赤司に伝えたら、何故か怒られてしまった。
お互い知り合いなんだし、隠す事でもないと思ったから言っただけなんだけど…。

『もう切るわよ、じゃあね!』
「え?…なんなのよ」
「…実渕さん、ですか」
「そう。切られちゃったけど…話したかった?」

スマホをポケットにしまいながら、何か考え込んでいる様子の赤司に向き直って聞くと首を横に振られた。
でも玲央のあの慌てよう、何か悪いことでもしでかしたのかもしれない。

「そういえば赤司は何かあったの?」
「あぁ…いえ、少し様子を見に来たんです。むしろなまえ先輩に何かあったのではないかと、胸騒ぎがしたので」

そう言われてちょっとだけドキッとした。
今日の黒子との事を思い出してしまったけど、何もないよ、と笑ってみせる。
この子には離れていてもなんでも見通されているような感じだなぁ。

「…それならいいのですが」
「うん。あ、これからご飯にしようと思ってたんだけど上がって…」

と、ここでまたしても今朝の出来事が記憶に蘇り、慌てて今の言葉を取り消した。
黒子に忠告されたばかりだというのに、なんと軽率な女なんだ私は。

「ごめん、なんでもない!」
「…さすがにご迷惑ですし、帰りますよ。嬉しいお誘いですが」

それは、また今度。
そんなことを、月を背にして妖艶に微笑んで言うものだからつい見惚れてしまった。

「下まで送ります」

マンションは目と鼻の先だというのに紳士な彼に送られて、エレベーターに乗ったらそこに設置されている鏡に真っ赤な顔の女が映っていた。
私だ。

でも、赤司も黒子が言っていたようなことをしたいと思ってるのかな、なんて。
少し想像してしまった自分がひどく卑しく思えた。



(今はまだ、傷つけることしかできないので)
(耐えたオレを褒めて下さいね)

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