訪問

「宅急便です」
「もう騙されないわよ」

玲央との電話を終えてすぐに眠りについたおかげか、今朝は心地良く目覚められた。
布団を干し、洗濯でもしようかと考えていた矢先にインターホンが鳴ったのでまさか、と思いつつ応答すると黒子の姿があった。

「残念です」
「一人で居るときの黒子なら分かるわよ。ちょっと待ってね」

インターホン越しに少し会話してからロックを解除する。
桃井が昨日話してくれたことを踏まえると、今日は黒子の日って事かな。
玄関に上がるとききちんと靴を揃えていたので、この子も中々育ちが良いんだなと感心した。

「あの、押しかけておいて何なのですが」

リビングに黒子を通し、飲み物を用意したところで黒子が口を開く。

「一人暮らしの女性の家に年頃の男を上げるのはよくないと思います。二人きりですよ」
「別に黒子だし何かするとは思ってないわよ」

笑いながらそう言ったものの、昨日思い出した通り少なくともウィンターカップ終了時までは彼は私に恋してくれていたわけで。
今はどうか分からないにしても、確かに黒子のメンタル的な意味で不用意だったと思う。

「あー…それより、今日はどうしたの?」
「みょうじ先輩はまだ、僕の気持ちを覚えてくれていますか?」

眉を下げて珍しく微笑みながらそう言われたので、つい肩を跳ねさせてしまった。
それに気付いた黒子は顔を逸らして、それでも言葉を続ける。

「分かっています、先輩の気持ち。でも僕はまだ」

諦めていませんから。
そんな風に言いたげな目で、顔は逸らしたまま見つめられて、彼を家に上げたことを後悔した。

視線を逸らせずに居たら、黒子が静かに立ち上がった。
そのままこちらに歩いてきて、私の隣に座るのをただ黙って見つめるしかできない。

「先輩は知らないと思いますけど」

消えてしまいそうなくらいに小さな声で呟きながら、黒子の手が私に触れてきたのでびっくりして目を見開いた。
まさか黒子がこんな行動に出るなんて。

「男って、好きな人と二人きりになったら大体疚しい事を考えている生き物なんですよ」
「や、やましいことって」
「…例えば、手を繋いだり」

普段か弱そうに見えるし、バスケ部の面々と比べると小柄で華奢な彼からは想像もつかなかった男らしい手が私の手を優しく包んで指を絡められる。
その手を強く引かれたので、黒子の方に倒れこんだらまたしても意外としっかり筋肉のついた彼の胸元で受け止められる。

「抱きしめたり、キスしたり」
「ちょ、黒子…!」

ぎゅう、と力を込めて抱きしめられながら、耳元で囁かれてくすぐったい。
っていうか、そんなことよりこの状況は些かまずいのではないか。
とか今更になってそんなことを考えていたら、肩を押されて視界が反転した。



(後悔先に立たずとは良く言ったもので)
(きっと彼は怒ってるんだろうな)
(…もうちょっとちゃんと断っておけばよかったんだろうか)



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