襲来

「宅急便です」

インターホンが来客を告げる音で目を覚まし、応対するとそんなありきたりな言葉が機械を通して聞こえてきた。
碌に確認もせずにオートロックを開錠して、ソファに無造作にかけてあったシャツを羽織ってからぼさぼさの髪を適当に手櫛で整えているとふとした疑問が浮かんだ。
私何か注文してたかな…?
近日中の記憶を呼び起こしていると、玄関に到着したという合図が部屋に響いた。

「卒業おめでとうございます」

玄関扉を開けると、運送屋の制服を着たお兄さん…ではなく、中学時代の後輩たちであるカラフルな頭が高低差があるものの並んでいた。
待て、なんで知ってる?

「きゃあ!なまえ先輩寝起きですか!?かわいい!」
「シャツにスウェットとかあざといッス!桃っち後で写真送って!」
「うるさいぞ!近所迷惑なのだよ桃井、黄瀬!」
「おめーも十分うるせーよ」
「突然すみません、みょうじ先輩。春休みに入ったので卒業祝いをと思って来てしまいました」
「中学時代を思い出してみんなで出かけませんか?これ京都土産です」
「なまえちん〜お菓子あげる〜」
「ありがとう赤司、紫原。とりあえず桃井はカメラしまってくれるかな…?あとなんで知ってるの?」

途端に騒がしくなる玄関口に頭を痛めながらもひとまずカメラを構えて私の撮影会を勝手に始めている桃井を諌める。
最大の疑問であった言葉を投げかけると、赤司が「実渕さんに聞きました」とにこやかに言い放ったので後輩のオネエの顔を思い浮かべた。
赤司にだけは教えるなって言ったのに…。

ため息を吐いてこっそりオネエに恨みを込めつつ、まずはこの状況をどうやって打破するかを考える。
よりによって今日だなんて最悪だ…なんとかお帰り願わなければ。
と、必死の考えも虚しく、玄関とリビングを繋げている廊下を隔てていたドアが開く音がした。

「…えっ?」
「あ、あれって…」
「洛山の」
「…黛、さん?」
「げ」
「わあああ!ちょっと、違う!とりあえず入って!」

その音の主は昨日から我が家に宿泊していた黛のもので、状況を察したのか面倒くさそうに声を漏らしていた。
一斉に硬直してしまったカラフルズに声をかけ、言葉で説明するよりも見せたほうが早いだろうという考えに至った私は最前列にいた桃井と黒子の手を引く。
紫原は大して気にしていないようですんなり中に入ってくれた。有り難い。
それぞれ動揺しながらも室内に入って行ってくれている中、微動だにしていない人物が一人。

「あの、赤司…?説明するからとりあえず中に…」

声をかけてみるも、視線の先にこの騒動の発端である黛を凝視したまま動こうとしないのでどうしよう、と黛を見たらため息を吐きながら視線を逸らされた。

「今、ここで、説明してください」

やっと口を開いたかと思えば、さながら浮気現場を目撃した彼女宜しくドスの利いた声でそう言われたので怯みそうになる。
腕を組んで仁王立ちになりながら、いつも以上に綺麗な微笑みを浮かべているものの私には夜叉にしか見えないよ…玲央、夜叉の称号こいつに渡した方がいいんじゃないかな…。
しかし持ち堪えて、「入ればわかるから」と宥めるとリビングから騒がしい声が聞こえてきた。

「黄瀬?!お前なんでいるんだよ」
「笠松先輩!?森山先輩も…え、どういうことッスか?」
「なんや、青峰と桃井もおるやん」
「宮地先輩…」
「おう緑間、何してんだよ」

賑やかになりだしたリビングの様子を赤司も察知したようで、やっとこちらを見ては満足そうに微笑んでからやっと赤司も靴を脱いだ。
ご丁寧に脱いだ靴を揃えて、「お邪魔します」と会釈までしたところを見ると本当に育ちがいいんだろうなぁと思う。
安堵のため息を吐いてから、黛にも戻るように言うと「トイレ」と短く返されたので、玄関付近にあるトイレを明け渡してから赤司と一緒に部屋の中に入る。

この日が私の大学生活を目前にした貴重な二週間を壮絶なものに変えることになるとは、この時の私には予想さえできなかった。



(でも一人暮らしの女性の家に男性を泊めるのはよくないと思います)
(わかったよお父さんー)
(…どういう意味ですか)





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