ある少年の告白

ウインターカップ決勝。

かつての主将、一番の憧れだった赤司くんのチームに勝てた。
本当に強くてかなり苦戦したけど、でも、勝った。

誠凛のみんなと喜びを分かち合い、洛山の応援席を見るとあの人がこちらを見ている。
正確には、洛山の選手を、だ。

ロッカールームに戻ってそれぞれ勝利の喜びを噛みしめて、そして彼女に連絡する。

中学一年の時からずっと決めていたこと。
赤司くん達よりもバスケが上手くなったら、みょうじ先輩にこの気持ちを伝える、と。

「みょうじ先輩、中学の時からずっと好きでした」

火神くんと一緒にロッカールームを出て、一人待ってくれていた先輩を呼び止めて。
驚いてこちらを見ている火神くんなんて気にも留めずに、突き上げて来た感情のままに思いを吐き出す。

「…は、?」
「好きです、先輩」
「いや、黒子…さ。今どういう状況かわかってるの?」

真っ赤に腫れて、未だに潤んでいる大きな瞳で見つめられる。
長い睫毛が瞬きの度に揺れるのを見て、そういえばこれほどの距離で話すのは久しぶりな事を思い出した。

「さすがに今の今で…特にあんたに、そんなこと言われても…どうとも思えない…。何の嫌味?」

声が震えている。
それもそうだ、きっとつい今しがたまで、誰にも見られない場所で泣いていたんだろう。

赤司くんにも、他の選手にも誰にも見せずに、一人で。
だから誰もいないこの場所にいたんだろう。

「別に…私が負けたとかじゃないけど、でもちょっとは考えなよ。神経疑うよ…」
「すみません。どうしても今言いたかったんです」
「黒子がどうとかじゃないし、そんなこと知らないしどうでもいい…もう、行くね。話したくない」

そう言って、僕たちに背を向けて駆け足で去っていってしまった。
その後姿を見ても、何故か胸は痛まなくて。

「黒子、その…元気出せよ」

移動する事も出来ずに僕の隣で立ち往生していた火神くんが、かなり気まずそうにしながら気遣いの一言をかけてくれた。
けれど、元気がないわけでも落ち込んでいるわけでもない。

「何言ってるんですか火神くん。僕たちも行きましょう、カントクに怒られてしまいますよ」
「へ?あ、あぁ…」

存外通常通りの僕に戸惑ったのか、火神くんの声は裏返っていた。
この思いを伝えて、どうこうなりたかったわけじゃない。

正直ハッキリと断られるだろうと思っていたし、その覚悟で挑んだ試合だった。
でも、そうじゃなかった。
受け取り方によっては断られたとも取れるだろうけれど、"嫌い"だとも"好きじゃない"とも言われていない。

「可哀想ですよね、本当に」

誠凛のみんなと合流して、いつも通り最後尾を歩いて。
誰にも聞こえないように、小さく呟いて笑った。



(僕なんかに好かれてしまったみょうじ先輩も)
(僕なんかを好きになってしまった桃井さんも)
(…こんな、歪んだ僕自身も)



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