幸福
「赤司くんなら、きっと先輩のこと幸せにすると思いますよ」
そう言われて何も言い返せず、黙っていると困ったような顔をされてしまった。
ごめん、と呟き、アイスティーを飲む。
「そう、なのかもね」
確かに赤司と付き合えば、幸せなんだろう。
でも、赤司は?
こんな曖昧な気持ちの私と付き合って、幸せになれるの?
「私は、先輩に幸せになってほしいです」
優しく気遣ってくれる彼女にありがとうと小さく返して、アイスティーを飲み干した。
ほんと黒子はどうして桃井と付き合わないんだろう。
才色兼備だし…あぁ、料理できないからかな…?
「今日はほんとにありがとうございましたっ!」
「こちらこそ。また誘ってね」
もちろんです!と嬉しそうに返してくれた桃井に見送られながら改札を通る。
帰りの電車はかなり空いていた。
ドア付近に立ったままスマホを見るとラインが入っていたことに気付いたので電車に揺られながら内容を確認する。
黛からだ。
"今日はホテルに泊まるから"
その一言を見て、なんだかとても寂しい気持ちになってしまった。
それを隠すように普段使わないスタンプで"OK"と返す。
なんだろう、すごくもやもやする。
黛も黛なりに気を使ってくれているんだろう。
ありがたいと思う反面、私という存在は黛に気を使わせてしまう程度だったのかと認識してしまって胸が苦しくなった。
今日は一度も黛を見ることなく終わるのか、なんて。
自分がまるで中学生の恋煩いをしているかのような気分になって恥ずかしくなった。
我が家の最寄り駅に降り立ち、帰路を辿る。
東京に戻って初めて一人で過ごす夜に、ほんの少しの不安を感じながら。
(私ってこんな卑しい女だったっけ)
(…とりあえず、玲央に電話しよ)
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