買物
レストランを出て、ホテルのエントランスを二人で歩いていた。
どうやらこのホテルは赤司が宿泊している場所らしく、相変わらずの彼の財力に驚かされた。
ここ一泊いくらよ…。
「買い物に付き合って頂けますか?」
そう言う赤司に頷くと、当たり前のように手を繋がれて振り払うことも出来ずそのまま街を歩く。
こうしていると本当にデートみたいだなぁ。
そんな風に思うと同時に、黛とはこういう時間を過ごしたことがないと思い出して悲しくなる。
お互い積極的な方ではなかったものの、あまりにも一般的な高校生の恋愛とはかけ離れていたように思う。
似たもの同士で付き合うのも考えものなのかもしれない。
そう、今頃我が家にいるであろうかつての恋人のことを考えていたら、少し不機嫌そうな後輩の視線を感じた。
「オレと二人でいるときくらい、オレのことだけを考えて下さい」
ぽつりと呟かれた言葉に戸惑いながら、ごめん、と小さく返す。
もう心を読まれても驚かなくなってきたな…。
しばらく歩いて辿り着いたのは、小ぢんまりとした雑貨屋だった。
個人経営の店だろうか、ハンドメイドっぽいものが並んでいる。
「何を買いに来たの?」
問いかけてみたが、自身の口元に指を当てて「秘密です」と返されてしまったので店内を物色することにした。
あ、これ可愛い。
レザーリボンの、歯車のモチーフがついたスチームパンク風のチョーカーを手に取る。
こういうの好きなんだよなぁ、あ、このピアスも可愛い…。
などと、赤司のことも忘れて色々見ていたら赤司が声をかけてきた。
「終わりましたよ」
「ちょっと待って、今悩んでて…」
と、やっぱり最初に見たチョーカーを買おうと決めて、商品のところへ戻るが目当ての品が無くなってしまっている。
他の人に買われてしまったのだろう、一点ものらしいし諦めよう。
「いいや、行こっか」
「分かりました。後一つだけ行きたい場所があるんです」
店を出てからそう言われたので、なんとも自然と彼に手を差し出してしまっていたことには私以上に赤司が驚いていた。
だがそれも一瞬のことで、直後には嬉しそうな笑みを浮かべながら私の手を取り優しくエスコートしてくれるこの後輩の気持ちに応えることが出来れば、二人とも幸せになれるのだろうか。
そんな答えの出ない不毛なことを考えながら少しして、川沿いにあるカフェの前で「ここです」と赤司が立ち止まったので二人で店内に入る。
パンケーキが有名なお店だ。
(なまえ先輩、パンケーキが好きでしたよね)
(うん!ここ来たかったの)
(…よかった)
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