ストーカー先生

二年生の先輩に勉強を教えるなんて機会今までなかったし、何より隣に黛先輩がいる状況では自らの勉強すらままならないほどだろう。
それなのにも関わらず魔王様もとい我らが主将赤司様は「僕の命令が聞けないのか?」と言わんばかりに見つめてくる。
しかし黛先輩の前でおかしな行動をしていては引かれてしまうかもしれないので極力平静を装っていた。

「あの、根武谷先輩。ここはこうです」
「お?なるほどな」
「あんたまたこの動詞の使い方間違ってるわよ!」
「何回言わせるんだ?小太郎」
「みょうじ、これはどう訳したらいいんだ?」
「この場合は接続詞で見分けるといいですよ。これをこうして…」
「おー!わかりやすいな!」
「永ちゃんだけずるくない!?オレもなまえがいいー!」

根武谷先輩はマッスルマンなのになかなか飲み込みが早いというか、もともとそんなに頭悪いわけじゃないんだろうな。
軽く要点を説明すると問題を理解してスルスル解いていく。
聞かれたら出来るだけわかりやすく教える、といったことを繰り返していたら、隣の黛先輩が静かにその様子を見守っていることに気付いた。

「みょうじは教えるのが上手いんだな」
「え!そ、そうですか…?」
「あぁ、黛より全然わかりやすいぞ」
「うるさい…」

まぁ黛先輩説明とか下手そうですもんね!と思ったけど口には出さない。
あはは、と、濁すように笑いながら、葉山先輩組の様子も窺ってみる。

「だからこの動詞の使い方はこっちだって言ったでしょう」
「さっきはこっちっつってたじゃんかー!」
「この形容詞の場合はこう変化するんだ」
「えー?!もうわかんない!」

なんだか葉山先輩がかわいそうになってきた。
とりあえず根武谷先輩は大丈夫そうだし、ちょっと助け舟を出してみようか。

「アイツはあれでいい。単純に覚えが悪いんだ」

赤司くんに声をかけようと口を開いた瞬間に、隣の黛先輩が久しぶりに声を発していた。
そちらを向くとなんとラノベを読み始めていたらしく、その姿に一瞬見惚れながらも首を傾げる。

「実渕たちは同じ説明を何回もしてる。あらゆる言葉でな。それでも忘れてるんだよ葉山は」
「あぁ…なるほど」
「根武谷はまだ前に言った事を覚えてるから、まだマシなほうだよ」

ちらりと根武谷先輩の方を見ると必死に問題集と向き合っていた。
見えた限りだとちゃんと解けているようだし、私が少しでも力になれたならよかったよかった。
ふぅ、と一息つくと、先ほど黛先輩と普通にお話ししてしまっていたことを思い出して顔が熱くなる。

「あ、あの、飲み物持ってきます!」

勉強を教えている時はそちらに集中していたので特に気にしていなかったが、油断すれば肩が触れ合ってしまうくらいの距離に思い人がいたという事実を改めて認識すると居た堪れなくなって椅子から立ち上がる。
実渕先輩が「気が利くわね」と言ってくれたけど、そうやないんですごめんなさい…。

「手伝おう。玲央、小太郎を頼んだよ」
「わかったわ、征ちゃん」

部室の扉に手をかけたところで赤司くんも立ち上がり、こちらに歩いてきた。
なんやまた余計な事を言われるんちゃうか、と警戒しながらも一緒に飲み物を買いに行く。

「思っていたより冷静に取り組んでいたようだね」
「まぁほら、他の先輩方もおるし迷惑かけたくないやん?」

少し自嘲を含めて笑いながらそう言ったらちょっと驚いていた。なんや。

「千尋のことになると見境が無くなるんだと思っていたよ」
「それはちょい失礼ちゃうかな!?」
「だが事実でもあるだろう」

自販機の前に着いたので適当に人数分の飲み物を買い、二つ取ったら残りの分は全部赤司くんが持ってくれた。
意外と優しいんやなぁとか思いながら見てたら軽く睨まれたのできっと心が読まれたんだろう。

「あーでも黛先輩ほんまかっこええわ。近くで見るとなおさらやわ」
「そういう話を僕にするのか…」
「だって友達に話しても聞いてくれへんねやもん」
「何故僕は聞いてると思うんだ」
「え!?聞いてへんの!?」

その問いかけに対する返答はなく、すたすたと前を歩いて行ってしまったので急いで追いかける。
なんやかんや言っても赤司くんはちゃんと聞いてくれてるやん。
友達に話しても赤司くんの良い所の話にすり替わってしまって結局自分のこの行き場のない感情を溜めこむだけになってしまうから、申し訳ないと思いつつもつい話してしまうんよ。

「これからもそういう話は僕だけにするように」
「ん?なんで?」
「こんな変態がバスケ部のマネージャーをしていると知られたくないからね」
「変態…!?」

しゃーないやん好きなんやもん。
赤司くんはあれやね、きっと恋したことないんやろね!
変態呼ばわりされたことにショックを覚えつつも、ほんならもう嫌というほど話しまくってやる、と心に決めて、部室の扉を開けた赤司くんの後に続いて部室に入った。


(なぁ赤司、オレ多分なまえに教えてもらったら忘れないと思う!)
(ほう?じゃあ忘れたらどうする?)
(次の試合で50点取る!)
(…なまえ、次は小太郎を教えてやってくれ)
(そういう感じでええの!?)


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