ストーカー急接近



そして迎えた翌日、初めて部活に参加する日。
あぁあかん、黛先輩が近くにおる。あかん。

「みょうじ、なまえ、です。これから、おねがっ、お願いします!」

なんともまぁ情けない挨拶から始まったわけだが、樋口先輩の上手な教え方のおかげでマネージャー業は難なくこなせたものの集中はできていなかったと思う。
ちょっと赤司くんに睨まれた気がするもん。

そもそも私はコミュニケーションが得意ではないので、人と喋ったり関わったりするのは本当に仲の良い友達とだけだった。
この高校に入ったのだって小学校からの友達がここにするから、という事でぼっちの恐怖から逃れる為に猛勉強したからやし。
赤司くんはなんとなく別というか、黛先輩の情報を聞き出すために頑張って話しかけた甲斐があって普通に喋れるけども。

それが理由という訳ではないが、何か一つのことに集中して取り組む事は得意だった。
逆に言えばそれしかできないから交友関係を広めるなどの器用な立ち回りが出来ないとも言えるんやけど…。

「今日の練習は終了。自主練する者は各自開始してくれ」

主将…赤司くんの声で、レギュラーは各々トレーニングを始める。
上で見てた時も本当みんなストイックに練習しているのですごいなぁと思う。

「みょうじ、マネージャーも今日の仕事は終わりだからもう帰っていいよ。初日どうだった?」

樋口先輩がそう話しかけてくれたので、しどろもどろになりながらも大丈夫です、ありがとうございますとだけ返した。
え、でも私もう帰らないといけないんだったら黛先輩見れへんくなるやん。

「なまえ、もう帰るのか?」
「赤司く、キャプテン!お疲れ様です!」
「あぁ。予定がないなら少し付き合ってほしいんだが」
「予定言うたら日課があるくらいでそれに影響しないならいくらでも」
「それを日課と呼ぶ辺り本当に尊敬するよ。ついておいで」

日課とはもちろん黛先輩観察なわけだけど、それをハッキリ樋口先輩の前で言うのはちょっと気が引けたので濁してみた。
赤司くんにはちゃんと伝わっていたようで苦笑いされたけど。

「どこ行くん?」
「部室だよ。小太郎と永吉の勉強を見るんだ」
「え、葉山先輩二年生やろ」
「二年生でもテストはあるし、そのテストが追試となれば試合には出られなくなるからね」

そういう事ではなくてなんで一年生の赤司くんが勉強見るんやろって質問やってんけどまぁ赤司くんやしええわ…。
そんなことを考えていたら部室について、扉を開けると実渕先輩と黛先輩に向かい合うようにして葉山先輩と根武谷先輩が座っていた。

「だからどうしてここがこうなるのよ!」
「えー!?レオ姉教え方下手なんだもん!」
「調子はどうだい」
「どうもこうもお手上げ状態よ…あら、なまえちゃんも来てくれたの?」
「あ、えと、お邪魔します?」
「なまえー!オレなまえに教えてもらいたい!」
「ずりぃぞ、一番優しそうだからって」
「永ちゃんはまだ黛サンだからいーじゃん」
「じゃあ代わるか?赤司並みにスパルタだぞ」

なんだかわいわいしよる中、個室に二人きりではないにしても黛先輩と同じ空間にいる事なんて当然ながら今までなかったので一人固まっていた。
すると隣に立ってる赤司くんに肩を叩かれて。

「じゃあなまえは千尋と一緒に永吉の勉強を。僕は玲央と小太郎の勉強を見よう」
「えー!?なんで!?」
「不満か?」
「う…いいえ…」
「なまえ、千尋の隣に座るといい」
「…は!?え、私教えるとか…」
「あの難しい世界史を満点キープできる成績なら他の教科もそれなりだろう。マネージャーとして選手の補佐を頼む」

にこやかにそう言われたけどこの人絶対楽しんでやがるな…。
だからと言ってずっと突っ立ってるわけにもいかないので恐る恐る黛先輩の隣にあったパイプ椅子を引き寄せてから座る。
教えるって言っても、私一年生の範囲しかわからんけども…?

「そんなに気負わなくていい。あっちのバカよりこっちのバカの方がまだ覚えはよさそうだからな」

だるそうにしながらも黛先輩がそう声をかけてくれたのでなんというか昇天しそうになったものの持ちこたえて、できるだけ黛先輩の方を見ないようにしながら根武谷先輩に向き合う。
普段あれだけ見ていたくせに、距離が近いというだけで目も合わせられない程とは情けない!またとないチャンスやのに!

「頼んだぜみょうじ」
「あ…でも私そんな頭ようないし…」
「学年5位で頭が良くないのか?」
「へぇ…5位はすごいな」

赤司くんが余計な事を言いやがると黛先輩がほめてくれた。
それだけで舞い上がってしまった私は、なんて単純なんだろうか。

(おー!なるほどな、わかりやすいぜ)
(やるじゃないかみょうじ。助かった)
(へぁ!いえ、私なんてほんまに大したことないんで…!)

(征ちゃん楽しそうねぇ)
(オレもなまえに教わりたい…)
(無駄口を叩いてる暇があるのか?小太郎)



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