7.もういいよ黙って


"あの日"以来、あいつは屋上に来ていない。
小休憩の合間やらに見かける事はあっても、こちらに気付いてしまうあいつはそそくさと逃げて行きやがる。
まぁ、当然のことをしたわけだが。

影が薄い事は自覚していて、今のバスケスタイルに於いてはそれが取り柄でもあるんだがみょうじには通用しないらしい。
だからこそ、あいつに惹かれてしまったんだ。

みょうじの口から"赤司"という単語を聞くだけで虫唾が走ったのにも関わらず、あいつとの時間を維持したくて都合の良い存在を演じていた。
でも、これでいい。
あいつもオレなんかに相談しても不毛な恋は叶うわけないってことに気付いただろうし、何よりオレ自身が辛い思いをしなくて済む。

今日も今日とてみょうじはオレを見つけるとすぐに逃げ去ってしまうので、多少この関係が心地良いとさえ思っていたある日。

「僕も好きですよ、ありがとうございます」

ゴミを捨てに行くために裏庭を通ろうとしたら、うちの主将様の声でそんな言葉が聞こえてきた。
少し様子を伺ってみると、赤司と向かい合っていたのは今自らの思考の大半を占めているあの女。
その後のことは、よく覚えていない。

「ちょ、っと、黛…痛いよ!」

そんなみょうじの一言で我に返ると、いつもの屋上に来ていたことに気が付いた。
掴んでいたらしいみょうじの手首からは早い鼓動が伝わってきていたので、どうやらあの場からみょうじを連れ出してこの屋上まで駆け上がってきていたらしい。

「…悪いな、赤司に告白していた所だったんだろ?」
「え?」
「良かったじゃないか、あいつがまさかお前みたいなのを相手にするとは思わなかった」
「ひど、」
「あぁ、でも勘違いされたかもな。付き合ってその日に振られることになったりして」
「黛、とりあえず、離して?」

居た堪れなくなって矢継ぎ早に繰り出される言葉はなんとも情けないもので。
手首を掴んだまま彼女には背を向けて、挙句の果てには子供を諭すようにそう言われて一度言葉を止める。

「…離したら、あいつの所に行くんだろ?」

あぁ、本当に情けないな。
年下に嫉妬して、何も言わずに連れ出して。
その上みょうじの口から真実を聞くのが怖いからって何も言わせないとか。

「黛、勘違いしてる、よ。告白とかしてないし…っ」
「嘘つけ。赤司も好きって言ってただろ。オレは別にそれでもいい」
「それでもいいって…?」

一階から屋上まで駆け上がったせいでまだ息が上がってるらしく、呼吸を落ちつけながら必死に話そうとする姿も愛らしくて余計にあの赤髪の後輩への嫉妬心が湧いてくる。
未だ掴んだままの細い手首を強く引き寄せてはあの日したように抱き寄せると、みょうじの甘いシャンプーの香りを鼻腔が捕えた。

「お前が誰と付き合おうが関係ない」
「っ、じゃあ、離してよ」

あの日と同じように身を離そうと精一杯の力を込めてくるけど、結局男の力に敵うはずがなくて。
そんな行動にさえ愛しさを感じてしまうオレはもう末期なんだろうな。

「お前が誰を好きだろうが、誰と結婚しようが」
「…黛には、関係ない」
「あぁ、そうだな」
「なのに、なんで」

なんで、泣いてるの?
みょうじの肩に埋めていたオレの頭を優しく撫でる感触があって、腰にも腕が回された。

「なんでオレじゃないんだよ。なんであいつなんだ?」
「黛、」
「オレの方がずっとお前の傍にいたのに」
「あのね?」
「あいつよりオレの方がお前のことを、」

好きなのに、と、ついにこの侘しい気持ちを吐き出そうとみょうじの目を見つめた瞬間、あの日オレから一方的に投げかけた唇が、彼女から重ねられてきた。
一瞬のことだったけど、オレの思考を停止させるには十分すぎて。

「…は、お前、誰でもいいのかよ」
「違うけど、えっと…」

結局毒吐くことしかできなかったものの、従来の自分が戻ってきたようにも思う。
自分からキスしてきた癖に照れくさそうに俯く彼女の頬を撫でると、自分と同じように彼女も涙を流していることに気付いた。

「もういいよ黙って」

そう言いながらみょうじはまるで恋人にするかのように優しいキスを降らせてくるから、もう歯止めが利かなくなっていた。


(まず赤司くんに告白とかしてないし、赤司くんが私を好きとかありえないし)
(とりあえず黛は私の言葉だけ聞いていればいいよ)
(気付くの、遅くなってごめんね)



(私、黛のこと好きみたい)

[ 7/21 ]

[*prev] [next#]
[mainmenu]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -