6.じゃあ死んでくれる?

強く強く抱きしめても、腕からすり抜けて行ってしまう気がして。

自分がこんなにも誰かを好きになる日が来るとは考えた事すらなかった。
始まりは本当に些細なことで、室ちんのクラスメイトであるなまえちんがお菓子をくれて、なまえちんがオレのことを好きって言ってくれたからだった。
恋愛感情ではなかったけど普通にオレも好きだったし、んじゃ付き合う?みたいな感じで適当な始まりだったくせにこのザマだ。

"好き"って気づいたのは、なまえちんと室ちんがなんだかすごく楽しそうに話していたのを見たからだった気がする。
自分のものを取られたような気分っていうより、単純に自分の中にドス黒い感情っていうかもやもやが浮かび上がってきて。
赤ちんに相談したら、「敦は本当に彼女のことを愛してるんだな」って教えてくれた。

「なまえちん愛してる」
「私も愛してるよ、敦」

思い返した限りではこういう感情は初めてだし、つまり初恋ってことになるらしい。
だからなまえちんから好きとか愛してるとか言われると嬉しいけど、その分不安もあるんだ。
好き過ぎて苦しくなるのも、もしなまえちんが死んだらその死体でも絶対に離れたくないと思うくらいだし。
何より、なまえちんが他の人間に見られてるってのがたまらなく嫌だ。

「私が死ぬまで、ずっと一緒にいてもらうからね」

そう言ってくれるけど、その言葉を信じられるほどオレは大人じゃなくて。
彼女のことを困らせてるんだろうけど、でももう耐えられないんだ。

「なまえちんはさぁ、なんでオレがいるのに室ちんと話してんの?」
「んぇ?クラスメイトだからでしょ」
「気に入らねーんだけどもう話すのやめてよ」

二人でなまえちんの家に帰ってきて、今日の出来事を思い出してはふつふつと湧き上がってきたあの黒い感情をなまえちんにぶつけてしまう。
わたあめみたいに軽いなまえちんを抱き上げて、思いっきり抱きしめると苦しそうな吐息が耳にかかった。

「なまえちんはオレのでしょ?他の男と話すなよ」
「むりでしょ、てか、くるしい」
「ずっとこうしとけば、話さないっしょ?」

なまえちんとオレが同化してしまえばいいのに。
そう思いながら一層強く抱きしめると、オレの肩に置かれていたなまえちんの腕がだらりと下に落ちた。

「っ、なまえちん」

我に返って慌てて力を緩めると、なまえちんはいきなり息を吸い込んだせいで咳き込んでいた。
でも、なまえちんが悪いんだし。
オレ以外の男に笑いかけたりするから。

「げほ、っ敦、大丈夫だよ」

咽たせいで涙目になりながらも、そうやって微笑みかけてくれる。
挙句の果てには半ば本気で殺してしまおうかとまで考えていたオレの頭を優しく撫でてくれるものだから、余計に愛しさが増してしまうんだ。

「敦、嫉妬してくれたんだね」
「…してねーし」
「してるよぉ、私敦のこと大好きだから、大丈夫だよ」

ぎゅ、と、か細い腕で彼女なりに精いっぱい抱きしめてくれて。
今度は少しの力でその細い胴体を抱きしめた。

「なまえちんほっといたらすぐどっか行きそうだからさ」
「行かないよぉ。こんなに敦のこと好きなんだけど」
「どーだか」

信じたいのに信じられない自分に対してのもどかしさを視線から読み取られないように、彼女の喉元に顔を埋める。
あぁ、この首筋に噛みついたら、この小さな身体を巡る甘美な赤い液体をオレのものにできるのだろうか。
そんなくだらないことを考えていたら、逆に自らの首筋に刺激を感じた。

じゃあ死んでくれる?

驚いて身体を話したら、そう言いながら優しく微笑みかける彼女と目が合った。
そうか、なまえちんもオレと同じだったんだね。


(もちろん一人でなんて言わないよ)
(二人で一緒なら、何も怖くないもんね)



[ 6/21 ]

[*prev] [next#]
[mainmenu]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -