8.嫌いになった?

子供みたいな独占欲で彼女を縛り付けて、傷つけるくせに離れて行くのが怖いだなんて。

幼稚な自分に呆れ返りながらも、なまえっちにはオレだけって刻み付けたかった。
だから絶対に体育館から少し離れた場所で待っているように言っていたし、なまえっちが一人の時は絶対に傍にいられるようにしていたし。
少しでも、ほんの一秒でもオレのことを考えていられるように見た目に群がってくる汚い女どもの相手をしたりもしたんスよ?

「なのに、どういう事ッスかね」
「どういう事って言われても、別れようって」
「意味わかんないし別れないよ」

オレがどれだけなまえっちのこと好きか、絶対わかってないっしょ?
俯いてるせいで彼女の表情は見えないけど、床に零れ落ちる涙で予想はつく。
泣くくらいならなんで別れるとか言うんだよ。

「私は、黄瀬の、玩具じゃないし」
「玩具だと思った事なんて一度もないんスけど」
「飽きられるまで、待つのはやだよ」
「飽きないし飽きさせないし、っつかオレの話聞いてる?」

目元をぬぐう事もせずにただ淡々とそんなことを言い続ける彼女に触れる事も出来ない自分にイライラする。
本当はその涙を拭ってやりたいのに、"オレが泣かせている"という事実がたまらなく嬉しいとさえ思ってしまうんだ。
本当、救いようがねぇなオレって。

「いつか飽きるよ、黄瀬は」

そう言われて、きっと、なまえっちもオレが離れて行くのが怖いんだなって思った。
ただオレと違うのは、"その時"が来る前に終わりにしようとしていること。

「許さないよ。オレから離れるのは絶対許さない」
「でも、黄瀬は離れるでしょう」
「離れてほしいんスか?オレ結構しつこいけど」
「知ってるけど」
「んじゃこの話終わり。いいよね?」

彼女の両頬を掌で包み込んで、小さな子供に言い聞かせるようにそう言っても彼女は首を横に振るだけだった。
正直、彼女にこんなに強情な部分があるとは知らなかったんスけどそんなところも可愛いとか思うわけで。

「ねぇなまえっち、オレはオレの愛し方しかできないよ」
「わかってるよ…っでも、私も私の愛し方しかできないんだもん…」

ぱっと視線が合ったと思ったら、睨みながらそんな風に言われたので驚いて思考が止まる。
なんだよ、そんなこと?
なんとも幼稚な彼女の愛し方がやっとわかった。

嫌いになった?

怯えたような目で、震えた声でそんな風に言ってくるものだから。
これまでにないくらいに強く強くなまえっちの体を抱きしめた。


(大丈夫、私は愛してるよ)
(だから嫌いになってほしいの)
(その分、貴方が私に刻み込まれるから)





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