3.もっと傷ついてよ

「リョータくんお疲れ様っ」
「待っててくれたんスか?いつもありがとね!」
「黄瀬くんっ、今日もかっこよかったよ!」
「照れるッスね、サンキュ!」

彼の部活が終わるのを待っていたら決まって体育館付近には女子の群れが出来ている。
部活が終わって彼が体育館から出てくると、その群れは決まって彼の髪色と同等くらいの声援を放つのだ。
その群れから少し離れたところで、主人の帰りを待つ犬さながらに目立つ黄色い頭をじっと見つめていた。

「なまえっち、お待たせ。帰ろっか」

女子たちに向ける営業スマイルとはかけ離れた微笑みをこちらに向けながら、女子たちの目の前でそう声をかけてくるのはやめてほしいと何度も言ってるのに。
おかげ様で上履きはなくなるわ教科書や鞄や制服も一体何回買い替えたものかわからないほどだ。
正直な所、それは別に些末なことだし他の誰が何をしてこようが黄瀬涼太は私の彼氏なわけだし(多分)、彼もそれなりに(本当にそれなりにだけど)愛してくれてるというのはわかる(時がある程度だけど)。

ただ、やっぱり、他の子と仲良くしているのを遠目で見るのは、少し辛い。

モデルだし仕方ないと割り切ってはいても、距離が近すぎるのではないかと思う事も多々ある。
同じクラスの黒子に相談した事があるけど、「黄瀬くんはああ見えて意外とクズですから諦めたほうがいいですよ」と一蹴されてしまった。
その時の"諦める"という言葉の意味が、諦めて付き合い続けろという事なのか、付き合い続ける事を諦めろという事なのかはわからないけど。

「今日も大人気だねぇ、黄瀬」
「本当有り難い限りッスね。なまえっちもあれくらいしてくれてもいいんスよ?」

とか、嫌味ったらしく言ってくるから差し入れとかも一切しなくなった。
だって、私がしなくても差し入れをしてくれる可愛い女の子はたくさんいるじゃない。
前にそれを黄瀬に直接言った時はなんだかとても嬉しそうな顔をされてちょっとだけ引いたのを思い出した。

「なまえっち、今日も家行っていい?」
「ダメって言っても来るでしょ。いいよ」
「ダメって言われたらさすがに行かないッスよー」

うそつけ。前にダメって言ったときに押しかけて来たじゃないか。
その言葉は喉を通らず、また心の奥深くに仕舞い込む。
何を言っても無駄なのはわかってるしなぁ。

両親共に出張が多く、ほぼ一人暮らし状態の私の家に彼はよく遊びに来てくれる。
普段のこいつの様子からすると、私の寂しさを埋める為とか善人みたいなことは考えていないんだろうな。
どうせ気楽に過ごせる溜まり場みたいな感じで考えてるんだろう。


普段通り黄瀬を自室に通して、飲み物を提供すると大体すぐにスマホをいじり出す。
絶えずラインの通知音が鳴っているのでそれをBGMにしながら私は私で本を読んだり宿題をこなしたり気ままに過ごしていた。
最初の頃は寂しさを感じたりしていたけど、今となってはこの関係が心地良い。

「何考えてるんスか」

あれだけうるさかった通知音が無くなった事も気付かないくらいに手元の本に集中していたら、突然その手元が影に覆われてしまった。
ぱ、と、顔を上に向けてみると黄色い髪に隠れた目が疎ましそうにこちらを見ていた。

「何も考えてないよ、本読んでた」
「ふーん。ねぇ、暇なんスけど」
「えぇ…女の子とのお話しは終わったの?」

ちょっと皮肉を込めて言うと、さっきの表情とは打って変わって楽しそうな、無邪気な笑顔を浮かべてくる。

「嫉妬してたんスか?」
「してない。本読むから何かしててよ」
「んじゃなまえっちで遊ぶ」

あぁ、もう、さっきまでほったらかしてたのはお前だろうに。
ぴったりと身を寄せてきては腰に腕を回したり、髪に指を絡めたりして読書の邪魔をしてくる。
終いには頬に手を当てて自分の方に向かせようとしてくるので、いい加減苛立ちが最高潮に達してしまった。

「なに!ずっと放置してたくせに、今度は邪魔するの?」
「あれ…怒った?ごめんって」
「っ…いいけど、別に…」

普段私の前では飄々としてるくせに、ちょっと私が反抗するとすぐにこうやってしおらしくなる。
結局私もこいつのことが好きなのだ。この整った顔でそんな表情されたら許してしまう。
顔が好きなわけじゃないけど。どちらかといえば顔だけなら青峰とか紫原の方が好みだし。

「なまえっち、いつもごめんね」

そうやって囁くように謝られて、優しくキスをされると一層この黄瀬涼太という男に溺れてしまう。
こう…飴と鞭みたいな。
どうせこいつが私に飽きるまでは、こうやって絆されていくんだろうな。
なんて、自分自身に呆れながら、彼の優しいキスの雨を受け止めた。




(いつも傷つけてばっかでごめん)
(でも、もっと傷ついてよ)
(その分、オレが君に刻み込まれるから)


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