※途中で終わります。お題箱に投げてくれた方本当にすみません……




「羽島、あのさ」
「何」
「名字せんぱーい!」
 項垂れた体勢からガバッと効果音がつきそうな程勢いよく名前が突然立ち上がった。対面に座っているリンや近くにいたヴァンガード部の部員達が驚いたようにこちらを見ていたが、そんなのは気にも止めず名前は不審な挙動を繰り返していた。勢いよく立ち上がった拍子に床に散らばってしまったカード達の様子は何かとんでもないことが起きたのかと錯覚するほどだが、何故名前がいきなり立ち上がり慌てた表情をしているのかは誰も分からなかった。
「先輩? 一体どうしたんですか……?」
「あ、ごめん。驚かせちゃったね」
 名前は以前から(部員でもないのに)部室に入り浸って主にリンやアンリとよくファイトをしていたが、今日はそれもせず菓子を食べるリンの横でひたすら溜め息を吐くのみであった。本来なら使われるはずであったデッキも机の上に置かれるだけで、今は無惨に散らばってしまっている。
「俺も手伝いますね」
「いや大丈夫だから! 本当に!」
「……?」
 先程声をかけてきた後輩、早尾アンリから顔を背ける名前のその様子を間近で見ていたリンは、全ての合点がいったらしい。先程言いかけてた言葉も、それに関連した話だろう。
  カードを拾う名前達を呆れたような表情でリンは見つめていた。腑抜けた面を晒す友人は兎も角、その理由が同様に腑抜けた面を晒すこの男なのが微妙に気に食わないのだ。
「ああ。そういう」
「羽島さー、そういうってどういうこと?」
「知るか」
「羽島先輩?」
 頭上に?マークを浮かべる二人。何か聞きたそうな顔で見つめてくる二人を無視しシオンが持ってきた菓子の方へ意識を変えてしまった。フィルムを破いて飴玉を口に運ぶと柑橘類の味がした。
「(まあ悪くないか)」
「羽島のあの顔は飴ちゃん美味しい〜!って顔だね!」
「五月蝿い」
 籠から飴玉を引っ付かんで投げつければいくつかは名前の顔面にヒットした。容赦なく投げられたそれは小さな飴玉だと言うのに当たった部分は意外と痛みを感じる。
 とりあえずは「もう!」と口だけ怒ったふりをして、名前もリンと同じように飴玉を口に運んだ。そんな様子を端から見ていたアンリは、じゃれあうリンと名前の様子を観察しつつカードと先程散らばった飴玉を広い集めていた。
「あっ! ごめんね、拾ってもらっちゃって……」
「別にこれくらい気にしないでくださいよ〜」
 先輩二人が大人気なくじゃれあっているのも気にせず爽やかな笑みで応対する。いや、爽やかな笑みというのは名前のフィルターがかかっているだけかもしれないが。


「名字先輩」
「ん? どうしたの?」
 先程までのドタバタで恋の悩みを相談する気分にもなれずスマホをただ弄くるだけだった名前のところにアンリが訪れる。ここ最近入った新入部員達とファイトをしていたようだが、もうそれは一通り終わったらしい。朝から続いていた恋煩いもすっかり忘れた頃にアンリが戻ってきたのは幸運なのかもしれない。丁度数分前にリンがプロファイターに関する手続きの為にプロリーグ関係者から連絡を受け早退してしまったのは、現状心の整理がついていない名前にとって些か不運とも言えようが。
「今日の先輩、なんか様子がおかしい気がして見てたんですけど、すみません。俺の勘違いですかねえ……?」
「う、うん」
「ほんとに、もし悩みとかあったら気軽に相談して下さいね!」
 俺、いつでも先輩の力になるので!
 名前の悩みが誰かに相談出来るものであったのなら話は早い。悩んでいる対象の当の本人に話せるはずがない。無邪気に先輩を慕う後輩が、いつもより眩しく見えたのは気のせいではなかろう。
 そして何より、挙動不審だということをアンリに指摘されたのが恥ずかしかった。これほどアンリが恋愛に関して鈍感でよかったと思ったことはない。分かりやすすぎる名前の反応から、リンやシオンにはU20が終わってすぐに指摘されたほどだった。
「やっぱり名字先輩、今日すっごくため息の回数多いですよ……?」
「だめだよね、幸せ逃げちゃう……!」
 心配そうに顔を覗き込めば、必然と顔が近くなる。
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