いつも一緒に昼ご飯を食べる二人が今日は委員会でいないからぼっち飯になってしまった。さみしい。
 今日もライバル達を押し退け購買での戦争に勝つことが出来た。机の上に並べられた戦利品達を眺めていれば二人のいない寂しさを忘れられる……かもしれない。一番お気に入りの焼きそばパンを二つも確保出来たから(人気の焼きそばパンは普段は一つ確保するのがやっとだ)、今日は多分運がよかった。甘い菓子パンも嫌いではないけど、昼に食べるならやっぱり惣菜パンがいい。
 クラスを見渡せばみんな友達と食べていて、一人で食べている自分が浮いている気がする。いや、ぼっち飯仲間がもう一人いた。隣の席の鬼丸カズミ君。
「なにそれ、重箱?」
「これかい? 昼食だよ」
 そう言って重箱の蓋を開けた鬼丸君。料理が出来ない私でも丁寧に作られたんだと分かる料理の数々。見た目もすごく美味しそうだけど、作った人は鬼丸君のことを思って、味や見た目だけじゃなく栄養バランスも気にしているんだろう。赤緑黄(で合ってる?)のバランスがいい。
「すごい! 運動会ではりきるお母さんみたいに豪華なお弁当!」
「はは……ありがとう。うちの者に伝えておくよ」
「なんか、その、頭の悪い感想しか言えなくてごめんね……」
「いや、言いたいことはよく伝わったよ」
「鬼丸君ありがとう! おうちの人によろしくね!」
 鬼丸君はなんて優しいんだ、成績だけじゃなくて性格も完璧だなんて。実を言うと鬼丸君とは席替えして先生に「隣の人に挨拶しましょう」と言われた時だけしか話したことがなくて、その時だって一言「よろしく」としか喋ってなかったのに見た目がなんとなく怖いってだけで距離を置いていたのがバカみたいだ。わたし覚えた、人は見かけによらない!
「そういえば、名字さんは俺の名前を覚えていてくれたんだね」
「これから一年は一緒に過ごす仲間だから! そういう鬼丸君こそ、私の名前覚えててくれたんだ。自己紹介だって何話せばいいか分からなくて一言で終わっちゃったし」
「ああ。これから一年は一緒に過ごす仲間、だからね」
「……鬼丸君、多分絶対モテるでしょ!」
 日本語がおかしくなってしまったわたしについ吹き出してしまった鬼丸君だけど、それが嫌みに感じないのはやっぱり鬼丸君が持つ生まれつきの爽やかさからくるものなんだと思う。イケメンっていいなあ。
「名字さん、さっきからずっと気になってたんだけど……それは?」
「これ? 購買で買った焼きそばパンだけど」
「麺と、パン……?」
「もしかして鬼丸君、食べたことはおろか見たこともない感じ?」
「恥ずかしながら、見たことも食べたことも……」
「別に恥ずかしがらなくてもいいのに! 焼きそばパン美味しいよ!」
 わたしがそう言うと鬼丸君はおもむろに鞄の中を漁りだした。あれでもない、これでもないと中のものを一つ一つ取り出してみてるけど、目当てのものは見つからなかったみたい。
「鬼丸君?」
「いや……君の言う焼きそばパンを食べてみようかと」
「うーん、もう売り切れてると思うけど」
「……!!」
「うちの購買、美味しいって評判なんだよ。わたしは購買で進学先選んだみたいなものだから」
「そもそも、財布を持ってきてなかったんだ……普段は弁当だし買い食いというものもしないから……」
「そっか……それならこれ!」
 タイミングがいい、今日は丁度焼きそばパンが二つあった。パンはいっぱい買ったしお腹が減ったら最悪帰りに何か買って帰ればいい。普段はキリリとしている眉を八の字にしてこの世の終わりのような表情を浮かべる鬼丸君を見て放置なんて出来る人はいるだろうか、いやいない。
「……流石に申し訳ないよ。口ぶり的にお気に入りのパンなんだろう?」
「いいの! そんな世界の終わりみたいな顔してる鬼丸君放っておけないよ!」
「名字さん、明日自分で買うよ。今名字さんに貰ったらそれは名字さんの奢りってことになってしまう」
 鬼丸君、それはだめだよ……あの戦場は歴戦の猛者じゃないと……!箱入り娘ならぬ箱入り息子そうな鬼丸君があの一年から三年まで歴戦の猛者が揃う戦場に突入したら、想像するだけで恐ろしい。いや、鬼丸君なら持ち前のオーラでモーゼの如く道が開けるかもしれないけど。けど!
「だめーっ! あの戦場に鬼丸君は行っちゃだめ!!」
「戦、場……?」
「それじゃあ私にその唐揚げ一個ちょうだい、それでおあいこ! 友達ならお弁当のおかず交換してもおかしくないでしょ? これでおーるおっけー!」
「……ありがとう、名字さん」
prevnext
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -