TFADV短編 | ナノ





怖い夢なんか見ない(ラチェオプ)



はっと突然意識が覚醒した。
ガクンとビーグルモードの車体が一瞬上下に揺れた瞬間、ロボットモードへトランスフォームしたラチェットは、夢と現実の境目を未だに彷徨うブレインをたゆたわせたまま、ふらふらと力無く歩き出した。
まるで愛しい親を探す子供のように、その背中は頼りなく寂しかった。
探していた存在はすぐに見つかった。ロボットモードのまま壁に寄りかかりオプティックを閉じてスリープモードに入ったまま俯いた彼の表情を伺うことができない。
その姿は夜の闇に今にも溶け消えそうで、儚く映る。
あの時、彼が泉の中へ身を投じた時のように見失ってしまいそうで。
そんな滲み出るような恐怖を感じながら、ラチェットは恐る恐る眠るオプティマスへ近付いた。
疲れているであろう彼を決して起こさないように、至近距離へ近付き膝をついて顔をじっと覗き込む。
オプティマスは静かに眠っているのを見て、ホッとする。ふと手を伸ばして無防備な頬に触れた指が、労わるように優しく撫でた。

ああ、君は確かにここにいる。
死んでなんかいない。
確かに生きている。

その事実が涙が出るほど嬉しい。

「やっと会えたな…私のオプティマス」

しかしやはり触れているだけでは物足りなくなって来た。かつてじっくりと愛した機体と再び契りたい気持ちがスパークの底から湧き上がり、ラチェットは悩み込む。
浅ましい欲望を今ここで無性にぶつけたくなるが、年の割に無垢な寝顔を見下ろす内に鋼の理性でグッと堪えた。
代わりに頬に触れるだけの優しいキスを贈って。
投げ出された彼の大きな手の平に自分の手を重ねる。
温かい。
ラチェットの冷えたスパークが泣きたい程の安堵感に包まれた。

「…今はこれだけで充分だ」

もう怖い夢など見ない。
そのままラチェットも隣に座って眠り続けるオプティマスにそっと寄り添い、首筋に頭を傾けて静かにオプティックを閉じた。


(終)

6



目次 MAIN




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -