TFADV短編 | ナノ





夜の帳(ラチェオプ)



月夜の晩、人気の無い森の中を二人きりで歩いている。
誘ったのはオプティマスからだった。
先程から無言で先に歩くラチェットの背中をじっと眺める。
少し、やつれたか。
彼には多大な心労をかけたかもしれない。
何せ、自分は一度死んだのだから。

「正直、また君に会えるとは思っていなかったよ」

ふと足が止まったラチェットがポツリと呟く。
それはラチェットの心からの気持ちであった。
実際、オプティマスにはもう二度と会えないと思い込んでいたのだ。最愛の親友を永遠に失って、生きる希望を見出せなくなった。なんだかんだで彼のことが気に入っていたのだ。その感情を表すなら友情でも、果てには愛情であるともーーともかく何と表現しても構わない。
とにかく、彼はこの世界から消えた。
その日からラチェットも死人のように生きてきた気がする。
復興したサイバトロン星に戻る気も無く思い出の残る地球に残ったのは、彼の愛したこの星に住むことで、少しでも感じたかった。
確かにオプティマスが生きていた証を。
しかしその慕情の日々は、ある日あっさりと打ち砕かれた。
ジロリと振り返ったラチェットに細目で睨まれたオプティマスは、申し訳なさそうに肩をすくめるのみだった。

「生きていたのなら、何故真っ先に私に顔を見せに来ないんだ!」
「すまない…私もそうしたかったんだが、いろいろと事情があって」
「…バンブルビーには現れたのにか?」
「う…いや、それはマイクロナスが1人しか無理だと言われて泣く泣く…」
「はぁ。分かった。もういい」
「ラチェット?」
「今さらそんなことはもうどうでもいいんだ。何はともあれ、君が帰って来てくれた……こんなに嬉しいことはないさ」
「…ありがとう」

ラチェットは呆れたように排気するが、困った顔で顔を覗き込むオプティマスにプッと吹き出しつつも手を伸ばし頬にそっと触れる。
昔と変わらぬ澄んだ青いオプティックを、じっと見つめた。

「生きているんだな…」

この青は彼のスパークの色だ。
そう呟くと、やや恥ずかしそうにオプティマスの表情が緩む。

「いろいろと言いたいことがあり過ぎるが、今はこの一言が言いたい。ーーーお帰り、オプティマス」
「ただいま、ラチェット」

ほんの少しオプティックを冷却水で潤ませるラチェットが震えた声でそう告げる。
オプティマスも破顔して返事を返した瞬間、ラチェットが飛びついていきなり抱き締めて来た。
驚きながらもラチェットを抱き返す。

「ラチェット?」
「こんの…バカやろ…!私がどれだけ……!」
「……うん、うん」
「もう、二度といなくなるなオプティマス…!あんな思いは二度とゴメンだからな!?」
「分かってるよ。もう二度と離れない」
「……………、あーこの際だからぶっちゃけるが、お前さんのことがずっと好きだったんだよ。だからな、その、少しかがんでくれ」
「うん?」
「オプティマス…」

熱を浮かべた表情で見上げるラチェットの顔がボヤけて見える。
やや乱暴に唇を塞ぐ感触がして、今まさにキスをされていることにオプティマスが気づいたのは数秒後経ってからだった。
そして世界が反転する。

「後悔しないためにも今から君を抱く」

勢いよく地面に押し倒されたオプティマスに跨るラチェットの表情は生き生きとして輝いていた。

「好きだ、オプティマス」

顔を近付けるラチェットに恍惚とした声音で囁かれ、ゾクリとスパークが震えた。

(終)

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