TFA短編 | ナノ

いつくしみの美学(TFAウルオプ)

 よく見据えなければ分からない何かをあの青年は持っている。
 その事に気づいたのはいつだったか。アカデミー時代に入隊した何百人中の候補生達の中で、彼の姿を見たのは本当に偶然だった。赤と青のボディカラー。まだ初々しさが残るーーーしかし凛とした光を持つカメラアイ。
 その力強い意志を持つ目に惹かれたのかもしれない。
 ウルトラマグナスは遠い昔の日々を思い返しながら、手元のタブレットを操作していた。
「この分だと明日も休みが取れないか・・・」
 ウルトラマグナスは顔を顰めた。
 タブレット画面には、電子画面に表示されている無数のセイバートロン語で今日のスケジュールが表示されている。指で上から下へスクロールしてみるが、どれを確認しても密に予定された会議、行事の数々にブレインが痛くなってくる。
「またあの子に会えなくなるな。・・・いや。何か理由を付けて中央司令部に召還してみるか?」
 どうにかして顔だけでも見ることは叶わないだろうかとあれこれ悩む。
 あの子とは現在地球に派遣されているオプティマスプライムのことだ。五十年もの間行方しれずとなっていた部隊が辺境の惑星で無事に生き延びていたと報告を受けた時は酷く驚いたが、同時に心の底から安堵していた。
 何故なら、ウルトラマグナスはオプティマスのことを気にかけているからである。
 最初は単なる好奇心だった。なんとなく気になった。ただそれだけの理由で自ら近づいた。
 オプティマスは酷く動揺しながら、「私などに恐れ多いです・・・総司令官!」などと恐縮していたのが少し面白かったが。
 一人のオートボットとして、部下の一人として。最初はそんな軽い気持ちだった。しかし次第に周囲にひた隠しにしつつ、彼と密かに交流を続けていく内に不思議な感情がスパークの奥底から芽生え始めた。
 彼を放っては置けない。笑顔も魅力的だが、何よりも悪を許さない勇気と力に惚れてしまったのだった。
 それに気づいたのはつい最近だが。
 しかし、仮にも自分はオートボット総司令官の身分だ。対してオプティマスは地球辺境一部隊のリーダー。
 流石にお互いの立場が違い過ぎる。大っぴらに堂々と会いに行くことは憚れた。
 ハァッ。
 それを互いに理解しているからこそ周囲の目を盗んでこっそりと会っていたというのに、ここ最近は再び活動が活発になり始めたディセプティコンのせいで余計な仕事が増えた気がする。
「余計な真似をしおってからに。恨むぞ、メガトロンめ」
 今ここにはいない軍団の首魁の名を忌々しげに呟く。
 無論、返答などあるはずもなく。
 それどころかこちらを指差してバカにしたように嘲笑っている顔すら浮かんでくる始末だ。
 余計に頭痛が増してきたような気がして、思わずこめかみを抑えながら俯いた。
 その直後、不意に通信回線の受信音がタブレットから鳴り響いた。
「誰だ・・・ん?・・・オプティマス?」
 疲れた顔で画面に視線を向けると、表示された名前は今まさに心中で思っていた名前だった。
 年甲斐もなく嬉しいと感じた自分もまだ青臭いな、と我ながら呆れるが、切る理由もない。
 ウルトラマグナスは迷うことなく通話ボタンをタップする。
 パッと画面表示が一瞬で切り替わり、予想していた愛し子の少し緊張しながらも嬉しそうな顔がようやく拝められると期待した。
 そして、画面に表示されたのは、
 『ウルトラマグナス総司令官!エリートガードのセンチネルプライムです!現在地球に現地調査のため訪れていますが、定期報告のためあのやーーーオプティマスプライムのタブレットを借りてご報告させて頂きます!』
 ・・・・・。
 画面の三分の一を占める青い顎だった。
 それを見た瞬間、ウルトラマグナスの顔から表情が消えた。
(現地調査?何の?いやまず何故エリートガードの君が私に何の相談も報告もなく勝手に地球にいるのかね?)
 ぐるぐると疑問が浮かんではブレイン内に沈澱していく。嫌っているはずのオプティマスに何故わざわざ突っかかろうとするのだろうか。
 本気で、センチネルプライムの本心がよく分からない。
 彼の言動と態度があまりにもチグハグ過ぎて逆に可笑しくなってくる。もしかしたら彼も本音ではオプティマスのことを嫌っているわけではなく、むしろ好意を抱いているのかもしれない。
 もしもそうだとしたら、同期という間柄オプティマスも邪険にはできないだろう。優しさに付け込んで負担ばかり掛けているのではないだろうか。
 そこまで愚者ではないはずだと分かってはいるがーーー不安は拭えない。
 それにしてもだ。
 たかが一人の若いオートボットに、自分は一体何を考えているのだろう。こんなに邪な部分もあったのかと、ウルトラマグナスは改めて新鮮な思いがした。
 
                 (終)


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