TFA短編 | ナノ

その笑顔を見に(ウルマグ)

 なぜ、辺境部隊のプライムに過ぎない自分にこのお方がここまで目をつけてくれるのだろうか。オプティマスは時折悩むことがある。本来ならばあまりにも違い過ぎる身分ゆえに、相手から何の意図もない好意を寄せられればそうしても恐縮してしまう。
「…オプティマス。今日は気分が悪いのかね?」
「あ、いえ。そんなことはありません総司令官。ただ何というか…夢を見ているような気分になってしまって」
「夢?」
 不思議そうに聞き返すウルトラマグナスに、我ながら何と幼稚な言い方だと自己嫌悪に陥る。ここはサイバトロン星のエリートガード本部ではなく、地球という星の小さな廃工場の中で、しかもオプティマスの自室だ。
 そんな場所に軍の最高司令官がお忍びで訪ねてきたとあれば、意味が分からずブレイン内がショートしてしまいそうになる若き隊長の心境を誰が理解してやれるだろう。少なくとも軍医のラチェットは年の功からか憐れむような顔で肩を叩かれたが、だからと言ってどうすればいいのか。
 自分に何の用があるのだろう。地球に潜伏するディセプティコンの報告なら先日終わっているはずだが、他に総司令官自ら訪ねてくる理由がどうにも分からない。
 もしやセンチネルから自分の部隊運用に関しての苦言があったのだろうか。それならわざわざ総司令官が尋ねる理由などない。真っ先に査察官が派遣されるのが普通だ。本来ならば。
 しかし、総司令官は来たのである。わざわざ激務の合間を潜って。
「ふっ…そんなに硬くならなくてもいい」
 そんな動揺が、ウルトラマグナスには手に取るように分かるのか。
 堪えきれずに吹き出したウルトラマグナスに、オプティマスの顔が羞恥で赤くなった。
「あ、え、えっと…す、」
「すみませんも申し訳ありませんも言わないで欲しい。今回私が来たのは、本当に個人的な範疇なのだ」
 彼のオプティックは優しい光を宿している。それが自分に向けられている。
 何故、と。エリートガードですらない自分にそんな優しい顔を向けてくれるのだろう。
 言葉通りに受け止められないオプティマスは信じられない気持ちだった。
 そんな卑屈な自分が嫌になるけれども。
「それは、どういうことですか?私に何か用があるのならば通信だけでも充分では」
 そう自覚しながらも、この性格はなかなか治らないらしい。オプティマスはつい暗い声で呟いてしまう。
 ウルトラマグナスはじっと青年の顔を見つめながらーーーやがて残念そうに排気した。
「…君は優秀だが、たまに問題がずれているのがたまに傷だな」
「は…え?も、」
「謝らなくともいい。君に落ち度があるから来ているわけではないんだ。ただ、私が君の顔を見たいから来ている。それだけだ、本当に」
 そう言って朗らかに微笑むウルトラマグナスに、オプティマスは硬直した。
「自分の顔を…ですか?」
「ああ」
「わ、私の顔は」
「うん?」
 戸惑うように自分の顔をペタペタ触るオプティマスを、ウルトラマグナスはどこか微笑ましく思いつつも不思議に思っていると、
「…そんなに綺麗ではないのですが」
 思ってもいないことを酷く申し訳なさそうに言う彼に、ウルトラマグナスは一瞬呆気に取られる。
 そして、今度こそ盛大に吹き出してしまった。
「……っ!ふ、ははははっ!」
「し、司令官!?」
「くっ…そうかそうか、君はそう感じていたのか!ハハハッ…!」
 突然腹を抱えて爆笑し始めたウルトラマグナスに、オプティマスは驚くがこんなに笑われる理由が分からずただオロオロとしてしまう。
 そんな彼だからこそ、愛おしいというのに。自分が周囲から好意を寄せられていることにまるで気付こうとしないのはいっそ天才と呼ぶべきだろうか。ウルトラマグナスはつくづく残念に思う。あの事件さえなければ、エリートガードであれば迷うことなく側仕えにできたものを。
 だからこそこうしてお忍びで会いに来ているのに、少しは理由を察してもらいたかったのは贅沢だろうか。
 ようやく笑いのツボから戻ったウルトラマグナスは、すまないと謝って持参したボックスから高級品のエネルゴン缶を二本取り出しすと一本をオプティマスへ手渡した。
「あ、これは…こんな高価なエネルゴンをくださるのですか?」
「私なんかに、はもうお仕舞いにしないか?私は君が思うほど過小評価はしていないつもりだ。君の部下にも分けているから遠慮なく飲みたまえ。これは私個人の景気付けだ」
 そう言って、総司令官らしからぬ不敵な笑みを浮かべるウルトラマグナスにオプティマスはふっと笑った。やっと微笑んだのだ。その笑顔がとても眩しく映り、ウルトラマグナスは思わずオプティックを細める。
 きっとこれが本来の彼なのだろう。
 その笑顔を見に来たのだ、と言うと彼は困るだろうか。
「…ではこれは賄賂ですね?」
「そんな悪い言葉を言える子になったか。大人になったな…」
 しみじみと親父のように呟くと、オプティマスは苦笑しながら、
「私はもう大人ですよ、ウルトラマグナス総司令官」
「それもそうだな…では乾杯をしよう」
「ええ、ぜひ」
 そう言って、二体はエネルゴン缶を傾けてかち合うと笑った。


prev
next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -