TFA短編 | ナノ

2016年バレンタインB(ウルププ)

*すなこさんよりネタを頂きました(*´`*)



地球の文化に慣れ親しむために、人間達の行事やお祭りを積極的に取り入れようとする総司令官のお考えには賛成している。
以前、エリートガードの士官として地球に赴いた時は、国によって多種多様な文化が存在していることに驚いたし、何より音楽という素晴らしい文化をとても気に入ったのだ。
それに比べて我々の故郷であるセイバートロン星にはこれといった皆が楽しめるような大衆文化がこれと言って無いことに改めて気づいた総司令官は深く嘆いていた。
それらを反省した上で、改めて文化を学ぼうと再度地球を訪れた総司令官が地球人代表(となっている)であるサリから一番最初に教えてもらった文化が『バレンタインデー』であった。
ウルトラマグナスの手の平に乗っているサリはやたらノリノリで総司令官にバレンタインデーの文化を身振り手振りで説明し、総司令官は興味深くうなづく様子は些か滑稽にすら見えた。



「サリはいつの間にか総司令官とあんなに仲良くなったんだな」

オプティマスは嬉しそうに言いながら、まるでじじまごのような2人を遠くから見守っている。

「まあ半分地球人の彼女が一番地球の文化に詳しいからね。…いろいろ語弊もあるようだけど」
「大丈夫だよ。サリはおかしな事は言いはしないさ」
「(や、だいぶ前にセンチネルが騙された事があったんだけどなー)ところでオプティマス、今日は何の日か知っているかい?」
「今日?うーん…何だったっけ?あ、そうだそろそろ2人に飲み物でも持って行こうか。すまない、準備してくるよ」
「…ああ分かった」

いそいそと立ち去るオプティマスの背中をジャズは何とも言えない気分で見送った。
たぶん、いや絶対彼は今日がバレンタインデーだと言うことを忘れている。

(私も準備しようかな…やれやれ)


「ウルトラマグナス総司令官、よければオイルをどうぞ。あれ、サリは…?」
「ああ、ありがとうオプティマス。サリは用事があるからとついさっき出て行ってな…」

辺りを見渡すオプティマスだったが、TF用のソファの陰に小柄な彼女が笑いを堪えつつ覗き見していることには全く気付かない。
ゴホンッとどこかワザとらしい咳をするウルトラマグナスに気付いたオプティマスは慌ててオイル入りのグラスを手渡すと、礼を言って受け取ったので内心ホッとする。
一礼してそのまま立ち去ろうとするオプティマスをウルトラマグナスはなんとなしに引き止めた。

「総司令官、何か?」
「いや…特に用事はこれと言ってない……のだが」
「?はい?」

何だろう。今の総司令官は珍しいほどに狼狽えているように見えた。チラッとこちらを見ては視線を逸らして天井を見たり、また戻ったりとソワソワして落ち着かない。
どこか言いづらそうに唇が引き締まっているのは気のせいではないはずだ。

「オプティマス…その、な」
「は、はい」

心配になってオプティマスは総司令官の顔を覗き込むと、ウルトラマグナスは口ごもりながらボソボソと呟く。

「私は昨日地球に来たばかりで、その。なんだか疲れてな。何か甘いものはないかね?」
「お疲れですか?分かりました、甘いものですね」
「!………できれば、茶色で丸くて四角いものが欲しいのだが……」
「それなら、今すぐお持ちします」
「す、すまないな……」

どこか嬉しそうなウルトラマグナスを見たオプティマスはすぐに台所へと立ち去る。
残されたウルトラマグナスは年甲斐も無くワクワクしていた。ソファの陰からガッツポーズをするサリに心の中で素晴らしい文化を教えてもらったことに感謝を述べつつ今か今かとオプティマスの帰りを待っていたら、オプティマスはすぐにお盆を持って帰って来た。
さすがは優秀な部隊司令官だ…しみじみと感心するウルトラマグナスはオプティマスに差し出されたそれを見て硬直した。

「日本という国で作られている羊羹と呼ばれるお菓子をエネルゴンで再現したものです。こちらは日本茶と呼ばれる飲み物で、やはりオイルで再現しました。とても美味しいのでぜひお召し上がりください!さあどうぞ」
「……ありがとう……」

にっこり笑顔で差し出された羊羹と日本茶とやらを受け取ったウルトラマグナスの表情は、笑みを浮かべてはいたがどことなく残念そうだった。さも(´・ω・`)ショボーンの顔文字が見えてきそうなほどに!

「(ああ、ウルトラマグナス総司令官が哀れな…!やはり楽しみにされていたのですね……仕方ない、ここは元エリートガードとして私が一肌脱ぐか)…オプティマス、少しいいかな?」

そっと現場を覗き見していたジャズは内心涙を流しつつ、全く分かっていないオプティマスの腕を引っ張って台所に連れ込んだ。
キョトンとする彼の手に、あらかじめ用意していたTF用の板チョコを渡す。

「オプティマス、とりあえずこれを総司令官に渡すんだ」
「?でもさっきお茶受けを渡したばかりだし、だいいち日本茶にチョコは合わないのでは…」
「いーからいーから!今日だ け は 総司令官に絶対チョコを渡すんだ。あ、渡す時は両手でチョコを持って『私の気持ちです…受け取ってくれませんか…?』って小声で言うんだよ?」
「何でわざわざそんな台詞を?」
「総司令官がとても喜ぶ」
「!…分かった、渡してくるよ!」
「(ああ笑顔が眩しい…)行ってらっしゃ〜い…」

バタバタとチョコを持ってウルトラマグナスの元へ行ったオプティマスを寂しそうに見送るジャズであった。


部屋に戻ると、ウルトラマグナスは「違う…違う…」などとブツブツ呟きながらちまちまと羊羹を突いていた。
ああ、やはり総司令官は羊羹よりチョコが欲しかったのか…私もきちんと欲しいものを見定めて用意しなければ…と、オプティマスは少しズレた視点で反省する。

「総司令官…」
「ん?どうしたオプティマス……!そ、それはまさか…」
「あ、あの。申し訳ありません、渡す物を間違えてしまいました」
「い、いや構わないが」
「私の気持ちです…受け取ってくれませんか…?(これでいいのかな?)」
「!!」

教わった通りに板チョコを両手で持ちながら小声で差し出すと、ウルトラマグナスは一瞬呆気に取られた顔を浮かべーー次第に硬い表情が綻んでゆく。礼を言って板チョコを受け取る総司令官は、何と言うかーー大変失礼な表現だが、まるで仔犬が大好物のオヤツをご主人様に貰ったような…そんな雰囲気だ。
いや、十分失礼か。
しかしとにかく喜んでいるみたいだし、やはり渡してよかったなぁとオプティマスも嬉しくなる。
やはり元エリートガード。総司令官のことを何でも分かっているんだなと、オプティマスは内心ジャズに感心していると、ふとウルトラマグナスに隣に座るよう促されていることに気付いて驚いた。

「よろしいのですか?」
「ああ構わないとも。一緒にチョコを食べないか?さあ隣に座ってくれオプティマス」
「…喜んで」

恐れ多い気もするが、総司令官が言うのだ。断る理由もない。
少し恥ずかしい気持ちもしながらオプティマスはウルトラマグナスの隣に座ると、ふと目の前のが真っ暗になった。

「あーーー」

それがウルトラマグナスの顔の影で、唇が塞がれてしまったことに気付いたのは約3秒後であった。


(終)


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