TFA短編 | ナノ

2016年バレンタインA(ビーサリ)

*IFみたいな話で。



「明日はバレンタイン…なんだけど。どうしようかしら。ビーは今ここに居ないのに」

高層ビルの最上階に位置するオフィスは、現社長である彼女の城だ。21歳の若さながら、その可憐な美貌と明晰な頭脳を武器に若くして父の会社を受け継いだ才色兼備な若社長。

それが、今のサリだ。

サリは遠い遠い故郷の星に帰ってしまった恋人を恨めしく思いながら、ため息を吐いた。人間の男なら目を奪われるであろう長い足を優雅に組み直して椅子を回転させる。
街を一望できる巨大ガラスの外に広がる青空のさらに向こう側。
当然ながらセイバートロン星は遠過ぎて見えるわけがないのだが。
バンブルビーは地球での功績を認められ、今やエリートガードの士官となったのだ。
念願のエリートガードに移転することは、彼の昔からの夢だった。落ちこぼれだからこそ諦めずに努力した結果、ようやく掴んだ栄転。
だからサリは、やっぱり地球に残ろうかな…と悩む彼の背中を笑って押してあげたのだ。

『何言ってるの!?行きなさいよ!やっと叶った夢なんでしょ?エリートガードになったビー私に見せてよ!』
『サリ…でも、僕はサリと離れるのは寂しいよ!』
『バカね、もう一生会えないわけじゃないのに。スペースブリッジは作動するんだから、休みの日とかたまに地球に来たらいいじゃない?』
『サリ、でも…』
『…ね、お願いビー。私もパパの会社を継いで、いずれは社長にならなきゃいけないの。私は社長。あなたはエリートガードの戦士。お互い、頑張って成長して…大人になったら、また会おう?』

潤んだ瞳で話すサリをバンブルビーはじっと見つめる。
別れは寂しい。寂しいけど、僕には僕の、サリにはサリの道がある。
しばらくの間、バンブルビーとサリは見つめ合う。
やがてバンブルビーは苦笑してうなづいた。

『…うん、分かったよサリ。僕はエリートガードになる。それで、お互いに大人になったらさぁ…』
『え?なに?』
『大人になったら結婚しよ?』
『はい!?』

予想もしない突然のプロボーズ。サリはビックリして思わず上ずった声を上げてしまった。
一方、バンブルビーはニタリと会心の笑みを浮かべて喜んだ。

『ほーらはいって言った!約束だよ?』
『ば、ば、バカー!!』


「…うわー。やっぱり何回思い出しても恥ずかしいわぁ…」

サリは赤くなる頬を手で押さえながら当時の記憶を思い出して悶絶する。
まだ少女だったあの頃の自分は、今やすっかり大人の女性へと成長したのだ。
バンブルビーは大人になったら、と言ったのだ。
だから今度自分の目の前に現れた時は、約束通りバンブルビーとサリは結婚した。
ちぐはぐなコンビの結婚式だと、当時は仲間達に冷やかされものだが、それでも2人は幸せいっぱいだった。
お互いの仕事が仕事なだけに、超が付くほどの遠距離結婚生活になるのは了承していたつもりだったけれど、やっぱり寂しい気持ちは心の端に残る。
サリは引き出しを開けて、中からタブレット型の端末機を取り出して操作し始めた。画像ファイルを開いて写真を横に流し、ある一枚の写真が止まった瞬間に指が止まる。
それはサリがバンブルビーのために用意した手作りのエネルゴン製のお菓子だ。

「これ作るの苦労したんだからね。せめてバレンタインデー当日には間に合ってね?」

指を忙しく動かして愛しい旦那様にメッセージを送った。

「いつだって私は本命しかあげないんだからね?」


(終)


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