TFAラストエンゲージ | ナノ

ラストエンゲージ3(メガププ)

もしもの話だが。

自分に娘がいたとして、ある日突然彼氏を家に連れて来たとしたら、自分はいったいどんな反応をしたらいい?

しかもそいつがメガトロンだったら。

見せ付けるように仲良く手を繋いでいるメガトロンとオプティマスの前に、髪は無いが怒髪天仁王立ちのラチェットがスパナを片手に凄まじい形相で睨みつけていた。
主にメガトロンだけを。

「よくもぬけぬけとここへ来られたもんじゃなぁキィサマアァァ〜!?」
「ら、ラチェット…顔がすごい怖いんだが…」
「勿体無いから写メってみるか?オプティマス」
「一体何をしに来たんじゃ貴様ー!」
「わー!ちょっとちょっと落ちついてよとっつぁん!オプティマスもいるんだからー!?」
「スパナはヤバイよスパナは!」

スパナを振り上げようとするラチェットを止めようとアイアンハイドとバンブルビーが慌てて抑え込む。
ちなみにプロールとサリはお出掛け中のためここには居ない。
長年の不倶戴天たるメガトロンを前にしてこの怒りように、さすがに気まずくなったオプティマスは手を離そうとするもののがっしりと握られて離れない。
不思議そうに隣のメガトロンを見上げると、メガトロンはニヤリと笑ってオプティマスの手を引きながら歩き始めた。

「め、メガトロンどこへ?」
「ここは騒がしい。お前の部屋に行くぞ」
「私の部屋に?ああ…構わないが」
「おいコラどこ行くんじゃ!?」

何百万年も稼働した機体のどこにそんな力があるのか、必死で止める若造をズルズル引きずりながらメガトロンの脳天をスパナでぶん殴ろうとするラチェットだったが、振り下ろす寸前にオプティマスがメガトロンの前に立ち塞がり仰天した。

「お、オプティマス!?」
「すまないラチェット…君の気持ちは良く分かる。でももう止めてくれ!今メガトロンを破壊したらせっかくの和解も破断になってしまう!」
「う…だが、メガトロンは敵だぞ!オイは静かに見守るつもりだったが、その顔を見たらどうしても憎しみが抑えられん…!」
「もうメガトロンは私達の敵じゃない」
「お前は何でそこまでこいつを信じらるんじゃ!その和解もディセプティコンの罠かもしれんのやぞ!オイは絶対に忘れん。アーシーの事も、貴様が裏切ったウルトラマグナスの事も…!」
「ラチェット、でも…!」
「よい、オプティマスよ。…ラチェット、確かに我はかつての友であるウルトラマグナスを裏切り、貴様の恋人も戦争で傷つけてしまった。それを許せないのなら我は今ここで謝罪しよう」

ラチェットを見据えながらメガトロンは真摯な態度で話し始める。
見たことも無い真剣な様子に、ラチェットもアイアンハイドもバンブルビーもカメラアイの光点を丸くした。
オプティマスも絶句した。恐る恐るメガトロンの腕に触れると優しく肩を抱き寄せられる。

「そしてディセプティコンのリーダーとしてオートボットと和解する話は決して嘘偽りでは無い。我を憎んで構わぬがそれだけは信じてほしい」
「メガトロン……あっ」

その時、突然オプティマスを抱き締めたメガトロンは触れるだけのキスをした。
唇が離れた後も、不敵に笑うメガトロンを見上げるオプティマスの機体は硬直していた。
その頬はだんだん真っ赤に染まりつつあるが。
一方、ラチェット達もあまりの出来事に硬直していた。
メガトロンは今が好機と判断してオプティマスを連れ出そうと歩き出す。
その背中へ、やっと硬直が解けたラチェットがおいっと声を投げる。

「何だ」
「…オプティマスを泣かせでもしたら、そのアホ面に特大スパナをぶん投げてやるからな。覚悟しとけ」
「…我がスパークに刻んでおこう」
「ラチェット!」

最後まで意地っ張りなラチェットはソッポを向いたまま振り向こうとしない。
ほら行くぞ、とメガトロンに手を引かれるオプティマスは、部屋を出る前にラチェットに向かって叫んだ。

「何じゃい」
「…ありがとう」
「ふん。二人共爆発してしまえばいいんじゃ!オイからはもう何も言わん!」

捨て台詞を吐くラチェットへもう一度礼を言うオプティマスはメガトロンと共に部屋を後にする。
ラチェットも足を踏み鳴らしながら自分の部屋に戻る!と出て行った。

「素直じゃないんだからもう〜」
「なんか、まるで『娘さんを僕にください!』な感じだったよね?そんで結局結婚を許しちゃった訳でしょ。サリとプロールに話したらビックリするだろうなぁ…」

残されたバンブルビーとアイアンハイドははああ〜と呆れながら排気した。





若造二人がため息をついていたその頃、メガトロンは非常に慌てていた。
オプティマスの自室に着いた瞬間、急にオプティマスが泣き出したのだ。
鮮やかなブルーアイから流れ落ちる透明な冷却水は、メガトロンが必死で慰めてもなかなか止まらなかった。
途方に暮れて、最後はその小柄な機体を優しく抱き締めてやる。
暖かな機体熱に多少は緊張が解れたのか、オプティマスもそっと背中に腕を絡め逞しい胸元に頬を寄せた。
メガトロンの大きな手が頭を撫でる。しばらくそのまま撫でていたら、やっとオプティマスが泣き止んだ。
おずおずと見上げて来る恋人の顔が可愛らしいと言ったら殴られるだろうか。
そんなアホな事を考えているメガトロンに、申し訳なさそうにオプティマスはカメラアイの光を揺らす。

「ごめん、急になんだか悲しくなってしまって…」
「別に我は気にしていない」
「君は、やっぱり強いなぁ。それに比べて私は…弱い」
「おい、卑屈になるな。お前は我が唯一認めたオートボットだぞ?どこが弱いというのだ」
「力じゃない。心の方だ」
「うん?」

訳が分からん、と首を傾げるメガトロンにオプティマスは悲しそうに微笑む。

「…自分自身まだ信じられないんだ」
「本当に私でいいのか」
「私は最後まで君を信じられるだろうか?」
「私とお前が一緒になるために、ラチェットのように心が傷つけられる者がたくさんいるんじゃないか?」

また一筋の涙を零す。

「一緒にいたいだけなのに、私達の間の壁はなんて高いのだろう」

「オプティマス」
「私は幸せになっていいのかな?」
「お前は…」

卑屈になるにも程があるぞ!
メガトロンはそう怒鳴りつけたかったが、また泣き出しては元も子もないのでグッと堪える。
自分の気持ちに全て嘘偽りは無いのに、この生真面目な男はどこまでも慈悲深く優し過ぎる。
それは時に厄介で、しかしメガトロンはそんな彼だからこそ惚れ込んだのだ。
恐らく今のオプティマスにはどんな言葉も効果はあるまい。
ならば、態度で示すべきだろう。
メガトロンはもう一度痛いぐらい抱き締めてやった。
驚くオプティマスだったが、特に抵抗も無かったので思う存分抱き締める。
やがて急に機体を離したかと思うと、メガトロンはオプティマスの左手を手に取った。
そしてどこからか取り出した小さな銀色のリングを人差し指にそっとはめた。
その行為の意味が分からないオプティマスは、ポカンと口を開けたままリングとメガトロンを交互に見る。

「え…え?メガトロン?これは何だ?」
「お前はエンゲージリングも知らんのか?ハァッハッハッハ!ならばあの幼女にでも意味を聞くがよいわ!」
「???」

急に笑い始めたメガトロンにオプティマスは呆気に取られるが、自分が笑われて良い気分になるはずがない。
こんなに悩んでいるのに、一体何が可笑しいのだ。オプティマスは笑い続けるメガトロンからムッとしてソッポを向く。

「そんな顔も可愛いぞ」
「うるさい!私は真剣に悩んでいるのにお前って奴は!だいたいこんな小さな輪っかなんか指にはめてどういうつもりだ!?」
「こういうつもりだ」
「んっ……!?」

オプティマスの頬を両手で包んで引き寄せたメガトロンは、文句を言おうとする唇を塞いだ。
オプティマスは離れようと身を捩るが、メガトロンの馬鹿力のせいで顔が離れられず結局為すがままにされる。
頑なな唇を強引に開かれ、柔らかな舌先で口内を犯されてゆく。また角度を変え、啄ばむような激しい口付けに次第に酔い痴れてしまう。
気が付くとオプティマスもメガトロンの首に腕を回して自分から求めていた。
これもいつもの事だ。
いつもメガトロンがオプティマスの意思を飲み込み、支配しようとする。
そしてオプティマスも結局は彼を受け入れてしまうのだ。
ブレインも機体もスパークもいつの間にかメガトロンでいっぱいになっていく。

(ああ、やはり私は彼と一つになりたいのだ)

どんな罪でも背負う覚悟さえあるなら。
きっとメガトロンも共に背負ってくれるはず。

「愛しているぞオプティマス」
「私も愛してる」

彼と一緒なら乗り越えられる。

ずっと一緒にいよう。

ずっと。



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