TFAラストエンゲージ | ナノ

ラストエンゲージ 2

その波は、静かな水面に小石を投げ込んで緩やかな波紋が広がるように、宇宙中を静かに駆け巡る。

それはもちろん銀河の辺境に位置する地球にも当然届いた。

「一体どういう事だメガトロン!そんな約束私は知らないぞ!?」
『この前逢引した時に我の事を「愛してる」と確かに言ったではないか?』
「だ!?…た、確かに言った…言ったけど……」

モニターの前で混乱しながら叫ぶオプティマスは、此方の心労など何処吹く風、気楽そうに笑うメガトロンを心底呪いたくなった。
そんな、メガトロンに弄ばれる我らが司令官を入口からこっそりと生温かい目で見守る部下達とサリの視線が、とにかく痛い。

『なら既に返事など決まっているだろう。我も愛しているぞぉオプティマス。結婚しよう。ハネムーンは地球がいいか』
「だから結婚って何だ!?私とお前は敵同士なのに出来るわけないだろう!?」
『だからそれを解決するためにオートボットと和解してやろうと決めたのだ。そうしたら連中も気前良く承諾してくれたぞ。良かったなオプティマス、これで晴れて我らは結ばれるぞ!』
「連中…って、まさかウルトラマグナス総司令官に、馬鹿正直にそんなアホな理由を話したのか…?」
『当然だ』

ドヤ顔で話す馬鹿大帝の顔に思いっきり拳をめり込ませたい。
ブチ切れる寸前だったが、とてつもない脱力感の方が怒りも気力もオプティマスから奪い去ってしまう。

「うわああぁぁ……明日からなんて顔して総司令官に会えばいいんだー!!」
『急に頭を抱えながら床を転げ回るな。大丈夫か?』
「誰のせいだと思ってるんだー!?」
「あ、あのさオプティマス…」
「しっ!今は邪魔しちゃダメよアイアンハイド!」

あまりにも可哀想過ぎて見ていられなかったアイアンハイドが恐る恐る声を掛けようとするが、サリに小声で止められる。

「サリ〜何で止めないのさぁ〜」
「だって、あの二人どう見ても痴話喧嘩っぽいしなんとなく邪魔しちゃいけない気がするもの…分かるでしょそう言うの」
「そう言えば、メガトロンって地球で復活してからなんか変わったよね。前はディセプティコンの支配者らしい言動だったのにここ最近は『オプティマァァァス!!』ばっかり叫んで追い掛けるんだもん。僕ビビっちゃったよ」
「確かにあの気迫は恐るべきものがある」

と、ウンザリしながら語るバンブルビーにしみじみと相槌をうつプロール。
そこへ少し苛ついたようなラチェットが口を挟む。

「ふん!メガトロンなんざ信用できるか。奴の本心が分からん以上、絶対に油断はできん!」
「でも、オプティマスもメガトロンの事が好きなんじゃ…て、うわぁラチェット、そんな怖い顔で睨まないでよ!」
「お前がくだらん事ほざくからじゃアイアンハイド!」
「くだらないって…でも、このままオプティマスがメガトロンとくっ付いたらオートボットとディセプティコンが和解するんだよ?そうなったら戦争、終わりじゃん。超平和的でいい事じゃない。ねぇサリもバンブルビーもそう思うでしょう?」

ムッとしたアイアンハイドが言い返しながらサリとバンブルビーに同意を求める。
サリとバンブルビーはえっ?と慌てながら互いに顔を見合わせた。

「ん〜えっと、確かに僕もそう思うけどさぁ」
「ほら、オプティマス自身の気持ちがあるし…急にそんな事になっても困るんじゃないかなぁ」
「現に今だって困っているである」

プロールの視線の先にはモニターに映るメガトロンに叫び返すオプティマスの後ろ姿があった。
さっきから会話がエンドレスループになっているのが気になるが、今は黙って見守るしかない彼らにはもはや割り込む隙間も無い訳で。

「…私もオプティマス一人に重荷を背負わせるような真似はしたくないであるな」
「え!プロールもオプティマスとメガトロンの仲に反対なの?アタシはなかなかロマンチックだと思うけど…」
「ロマンチック?どの辺が?」
「だって、悪の親玉と正義のヒーローが恋だなんて盛り上がるじゃない!」
「でもなぁサリ、プロールが言いたいのはそうじゃなくて、二人だけの問題じゃ済まされんと言う事だ」
「どういうこと?」
「オートボットとディセプティコンの溝はあまりにも深過ぎるって事だ」

不思議そうな顔をするサリを見下ろすラチェットのブレインは、遥か過去の大戦初期を思い出していた。
平和な街を、何の罪も無いオートボット達を無慈悲に破壊するディセプティコン達。
忘れもしないメガトロンの裏切りを今でも鮮明にメモリー回路は記憶している。
故にこそ、不信感が拭えない。
信じられないのだ。
こんな事で本当に和解出来るのか信じられない。
何よりオプティマスの意思はどうなる?

「この状況でオートボット側がさらに優位に立てないかと、オートボット内部や評議会の一部がオプティマスを利用せんとも限らんからな」
「更に言えば、オプティマスは微妙な位置に立たされてしまったであるな。様はオートボットを取るかそれともメガトロンを取るか。どちらにしても我々から離れてしまうだろう」
「そんな…オプティマスがアタシ達から離れる訳ないよ!」

必死なってサリが叫ぶ。
オプティマスが離れて行くなんて想像もしたくないからだ。
バンブルビーとアイアンハイドが慌てて宥めようと寄り添うが、心の隅ではもしもオプティマスがチームからいなくなったら…と、そんな未来を考えて怖くなった。

「…でもオプティマスは優しいから、和解出来るとなったらきっとメガトロンの下に行くよね」
「バンブルビー…」
「…どうなろうとおい達は見守る事しか出来ん。メガトロンがどう出ようが結局はオプティマスの気持ち次第じゃからなァ…」
「ラチェット…」

サリは口をつぐんだままそれ以上何も言えなかった。
全員の顔が再びオプティマスへ向いた。
相変わらずオプティマスはメガトロンと言い争いをしていたが、その表情はどことなく嬉しそうに見えてさらに胸がモヤモヤした。


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