TFAラストエンゲージ | ナノ

変わっていくもの

それから穏やかに日々は過ぎて行った。
その中でオプティマスやその周辺はゆっくりと、しかし確実に変化していく。
オプティマスはオートボットメディカルセンターに赴き定期健診を受けた。胎内の卵は順調に成長中。安定期に入ったし、このまま行けばあと1週間以内に体外へ排出出来るだろうと、担当のレッドアラート女医から告げられたオプティマスは驚いた。

「1週間!?じゃ、じゃあもうすぐ私の中から卵が出てくるのか?」
「痛みはありませんから安心してください。気がついたら寝ている間にスルリと受容器から産まれてますよ」
「痛くないんですか?私は陣痛みたいなものがあるのかと…」

あんなにつわりも酷かったのに。産まれる時はそんなにあっさりと産まれるものなのか。

「胎生機能を持つ有機生命体はそうでしょうが、私達は本来完成されたプロトフォームにスパークがインストールされて誕生する種族です。貴方のように胎内からプロトフォームの卵が宿るのは極めて希なケースですが、貴方のサイズから考えて手の平より小さな卵のはずですから、痛みはさほど無いはずですよ」

寝台に仰向けで寝ているオプティマスは不安そうにレッドアラート女医を見上げた。彼女は穏やかに微笑みながらオプティマスの腹から検査用コードを取り除く。

「もう起き上がって大丈夫ですよ、オプティマスプライム。卵も貴方もオールグリーン。問題ありません」
「ありがとうございます」
「産まれてくる幼体が楽しみですね。そう言えばもう名前は決めているのですか?」
「え、名前?」

言われてはっと思い出した。
そうだ、名前。この子が産まれたら名前は何て付けようか、まだメガトロンと相談していなかったのだ。
急に神妙な顔になるオプティマスを見たレッドアラートは呆気に取られた。

「…まさかまだ考えていなかったとか?」
「ああそうだ、すっかり忘れていた!何がいいかなぁ…?」
「ふふふ、旦那様とよく相談なさってくださいね」
「だ、旦那様って!?」
「あのメガトロンでしょう?それぐらい知ってますよ、あまりにも有名ですから」

真っ赤になるオプティマスにレッドアラートは笑う。

「かつて私もディセプティコンと戦うオートボット戦士を治療するため、軍医として戦地に出兵しましたから。未開の惑星に居ましたが、メガトロンの名前を聞いて畏怖しないオートボットはいません」
「軍医?貴方が?」
「ええ。ロディマスチームに所属していました」
「ロディマス?あのロディマスプライムですか?」
「彼をご存知なのですか?」
「直接の面識はまだありませんが、彼の輝かしい戦歴は知っています。ウルトラマグナス総司令官からも彼の話をよく聞かされる。優秀なオートボットだと」
「なるほど。ロディマスはウルトラマグナス総司令官を敬愛していますからさぞ喜ぶでしょう。優秀な彼ならきっとマグナスに選ばれるでしょうね」
「え?」

ごく自然な会話の流れに一石を投げ込まれたような気がして、オプティマスは思わずレッドアラートを凝視した。

「あら。ご存知ありませんか?ウルトラマグナス総司令官はもうじき任期を終えて退官されるそうですよ。そうなれば最高評議会が次期マグナスを選出しなければならない。これまでの功績を考えれば、私はロディマスがふさわしいと考えています」
「しかし彼はマグナスの地位に興味がないと聞きましたが…」
「そんな根も葉もない噂を信じていらっしゃるのですか?私の知るロディマスは、敬愛するウルトラマグナスの期待に応えるためにあらゆる努力を惜しまないオートボットです。貴方の前で言うのも心苦しいのですが、私はあのセンチネルプライムがマグナスにふさわしいとは思えません」

彼女にきっぱりと断言され、もはやオプティマスは押し黙るしかなかった。
センチネルは確かに戦士としては優秀だが、マグナスに就任した後の事を考えると果たして彼は有能な仕事が出来るだろうかと問われればはっきり言って疑わしい。
何せ傲慢で顕示欲の強い性格の彼の事だ。ディセプティコンやサリのような有機生命体に対する差別意識も根強く、急に友好的な態度を振る舞えるとは思えない。
対してロディマスはどんなオートボットなのだろう。
まだ会ったことはないが、レッドアラートの態度を見る限り好感の持てる優秀なプライムなのだろう。
しかし、ただ一つだけオプティマスは気になることがある。どうしても聞かなければならないこと。

「彼は、有機生命体やディセプティコンに対して何らかの偏見を持っているだろうか?」

レッドアラートは一瞬だけ無言になったが、やがて肩をすくめて首を横に降る。

「彼は謂れのない偏見や差別を嫌います。その点は安心してください」
「そう、ですか…」
「しかし…」

真剣な眼差しでレッドアラートは言葉を紡ぐ。

「センチネルプライムはどうだか分かりませんが、マグナスの地位にあるオートボットはオートボットの行く末を平和へと導かなければならない。センチネルプライムが考える平和の中に在るものはオートボットだけか、あるいは多種族も含めたものなのか…誰にも分かりませんよね。だけど過激な選民思想を切り捨てない限り、彼はオートボット以外の存在を決して認めない…」
「それは…」
「ともかく、オプティマスプライム」

レッドアラートは診察結果が保存されたUSBメモリをコンピューターから外してオプティマスに差し出した。
オプティマスが受け取るのを確認した後、彼女はほんの少しだけ同情するような顔をして言った。

「貴方もこれからが大変でしょう。メガトロンとの子が産まれた後はどうなさるのですか?貴方はオートボットのままでいますか?それとも正式に軍を退役してディセプティコンに行きますか?まあ、まだ時間はありますからゆっくり考えてみてくださいね」





「結婚は認めた。しかしオプティマスはオートボットだ。それは決して変わることはない」
「いや、奴はディセプティコンになるべきだ。我の子がもうすぐ産まれるのだぞ?その幼体の線引きを曖昧な境界線のまま放置するつもりか!現行の法律では産まれても市民権どころか存在すら認知されぬ。オートボットにその法律が無いからだ。ディセプティコンの市民権を認めぬボット供のためにな!」
「我々は彼や、彼の子に対して差別意識を持つつもりは無い!戦争が終わった今、ディセプティコンがサイバトロン星に共存するための改正案を議会に提出済みだ。それは必ず議会を通り可決されるはずだと私は見込んでいる。何も焦る必要は無いのだ、メガトロンよ」
「共存?その法案が議会に提出されてから何サイクルが過ぎたと思っている?ウルトラマグナスよ、よもや評議会議員の全てが我らディセプティコンと本気で共存できると信じている訳ではあるまいな?実際は半数にも満たないのではないか?それよりもその内容が気に食わぬ。ディセプティコン全機に対する登録制度、住居地域及び就職の制限、選挙権の制限……これが対等な法案だと胸を張って言えるならば、なるほど貴様は芯からのオートボットだと褒めてやる」

怒りを隠さないメガトロンを直視できなかったウルトラマグナスは、沈鬱な表情を浮かべながら視線を逸らした。
総司令官室の中で二体のリーダーはそれぞれの主張を訴えていたが、全く意見が噛み合わず全て平行線に終わっていた。

「貴様が全て作った案ではあるまい。横槍があったのだな?」
「…そうしなければまず議会が法案の提出を受け入れぬのだ。私は総司令官であって法律を作る議員ではない。法改正はあくまでも議員の役割だ…そしてそれに賛同する議員と、議席を確保するにも長い時間が必要だ。オートボットは独裁政治ではない」
「民主主義のカーテンを開ければ数の暴力とも言い換えれるな」
「だが暴力よりは遥かにいい!」
「その意見は正しい。正しいが、オートボットの正義は個人差があるようだ。やはりこの星の支配者はオートボットだ。我々ディセプティコンが暮らすには常に日陰の位置にいなければならない……だが、昔に逆戻りになるくらいならば我はこの星を見限る」

今、メガトロンは何と言ったのだ?
ウルトラマグナスは椅子を倒して立ち上がった。

「メガトロン!何を考えている!?」
「我の考えを聞かせよう。我々ディセプティコン全機はこの星を去り、新たな移住地へと移る。新たな首都を建設しそこに政府を作り、最終的には銀河連盟に正式な国家として認めてもらい我々の国を興すつもりだ。オートボットが迂闊に滅ぼせぬ主権国家を作るのだ。そうなれば真の意味でオートボットと対等の立場に立てる」

ウルトラマグナスのブレイン内部は怒りと驚きの感情が回路を駆け巡り、白い火花が散り始めていた。

「メガトロン、貴様は我々との和平を破るつもりか?共存の話は偽りだったと?」
「和平は偽りではない…しかし両者が納得した平等な共存などあり得ない。貴様らオートボット内部でさえ差別が存在する。ならばディセプティコンなど存在すら危ういだろう。だから安心して寝られる居場所を作る。それの何が悪い?互いに隣に居なければ争いなど起こりようがないはずだ。違うか?」
「しかしそれでは……我々は元は一つの存在から産まれたと言うのに…」
「一つの?」

フッとメガトロンは嘲笑する。

「違うな。これは自立だ。我々は母なる星から巣立ち、新たなフロンティアへ旅立つのだーーゆえにオプティマスは連れてゆく。奴はもうディセプティコンなのだからな」







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