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「多分そりゃ、遠慮みてぇなモンだろ。何のかのとあいつ、殴られた後は相手をボコってただろうが。さすがに少しは反撃させてやらねぇと、っつー余裕みてぇなもんだろ」
「……そうかねぇ?まあ、とりあえず澪汰が道場破りをしてるとして、それを澪奈さんには、」



廉二がそう言うと、廉はニヤリと笑いながら日本酒をあおった。



「言わねぇよ。つーか、言えるわけねぇだろ。あの気丈なお袋すら俺らには戸惑ってたんだ、お嬢様育ちのあの人じゃあ、半狂乱になるだけだろうからな。ヤベェとこまでいっちまったら止めるしかねぇだろうが、元・道場破りの先輩たる俺たちが今のあいつに何か言えるわけねぇだろ」
「……まあな」
「廉三はあの通りだからな、見てみぬフリして逃げる事しか頭にねぇから、……ま、生暖かく見守ってやろうや。我が甥が、どこまでやるもんなのか」



けどまあ、あんまり無茶されても困るから少し釘は刺しといたが、と廉は笑いながら言う。それに弟は苦笑しながら頷いた。



「……ま、確かに?今の俺たちじゃ、立場があってろくに喧嘩の一つもできはしねぇしな」
「その前に、お縄だしな」



くっくっ、と廉は喉で笑い、廉二の杯に日本酒を傾けながら言った。



「とりあえず、もう少ししたらまた澪汰を呼び出して組み手するつもりだ。……実地はいいが、間違った方向に行ったなら是正しなきゃなんねぇしな」
「とかいって、自分も楽しみたいだけなんだろ」
「へ、……なんなら、お前も来ていいんだぜ、廉二。お前、澪汰を気に入ってただろ。あいつがどんな成長を遂げてるか、気になるんじゃねぇのか」
「……」



兄の言葉に、廉二の脳裏に小学生だった頃のあどけない顔の甥の姿が浮かぶ。低学年の頃から立派な体躯を持っていたあの甥は、空手のセンスも並の子供とは違っていた。自分達にどこか似た面差しを持つその少年に、師ではあったが伯父でもある廉二は心ひそかに誇らしい気持ちを持っていた。――さすが、俺たちの甥だ、と。だからこそ廉二は厳しく澪汰に接し、そしてそれに澪汰はついてきた。そんな姿に、廉二はついに持てなかった『息子』の姿を見、――そしてそれは兄も同じだったのだろう。それを思うと、廉二は少し可笑しい気持ちになり、……そして目を伏せ頷いた。



「ああ。じゃあ次は、……俺も呼んでもらうかな。我が一門の成長を、見届けるために」
「おう」



二人はニヤリ、と笑う。それは二人が同じ気持ちであったことをお互い察した瞬間であり、――それから二人は、無言でただ酒を酌み交わし続けたのだった。


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