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妻・澪奈から息子・澪汰の夜帰りをまた泣いて訴えられた、その翌日。澪汰の父・名倉廉三(なぐら・れんぞう)は、兄であり澪汰の師範である名倉廉(なぐら・れん)に呼び出しを受けた。久しぶりに兄弟三人、水入らずで飲まないか、――そう気軽に言ってきた兄の用件が、息子である澪汰の事だとさすがに廉三にも察しはついていた。澪奈からうるさいくらいに澪汰の話は聞いていたし、兄たちに相談してみる、とも伝え聞いていたからだ。しかし、廉三は兄たちが苦手だった。嫌いというわけではない。が、万事が好戦的で肉体派の兄たちと、完全文系の自分とでは考え方がまるで違う。気は進まなかったが行かない理由もなかった廉三は、仕方なしに約束していた大衆居酒屋に足を運ぶ。するともう兄たちは来ていて、二人とも少し赤い顔をしながらタコキムチをつついていたが、廉三に気づくと次兄の名倉廉二(なぐら・れんじ)が大きく手を挙げた。



「おう、廉三、こっちだ」
「……すみません、遅くなりまして」



鞄を座敷に置きつつ、廉三は兄たちに頭を下げる。そんな弟に長兄である名倉廉(なぐら・れん)は豪快な笑みを浮かべた。



「気にすんな、道場経営の俺たちと違ってお前は宮仕えしてんだ、色々とあるだろ」
「しかし、……」
「ま、細けぇことは言いっこなしだ。とにかく座れ、三人揃うのは久しぶりなんだしよ」
「……、はい、」



そう言うと、長兄である廉は廉三に席を勧める。そうして背広を脱ぎながら席についた弟に、次兄である廉二は日本酒の瓶を傾けた。それを受けつつ、三人は最初は当たりさわりない近況を話し合っていたが、やがて本題に近づくと、廉は少し身を乗り出しながら廉三に言った。



「そういや、澪奈さんから聞いたが。……澪汰が色々あるんだって?」
「……」



その話になると、廉三はコップを置き、大きくため息をついた。



「……澪奈は、なんて言ってましたか」
「毎晩、傷をこさえて帰ってくる、ってな。訳をきいても答えてくれない、と」
「……」



それを聞くと、廉三はまた大きくため息をつき、少し上目遣いに兄二人を見上げた。



「確かに傷はつけて帰ってくることはありますが、……正直、兄貴たちの中高時代からすればかすり傷みたいなもんだと思いますけどね、……澪奈は心配しすぎなんです」
「ほう。ま、俺も廉二も昔はかなり無茶はしてたからな。が、……だからってお前、息子に何も働きかけなかったのか?今まで澪汰は、夜遊びするタイプってわけじゃなかったんだろ?」



長兄が少し説教めいた口調でそう言うと、廉三は少しムキになった様子で反論した。

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