B


――三日め


……そして、翌日。俺は山に遊びに行った。真壁先輩と遊びに行く、というシチュエーションに俺はちょっと浮かれてしまい、真壁先輩のお母さんと大きな弁当を作っていたのだが、



「よう、まこちゃん。今日は晴れてよかったなぁ?これなら山歩きも楽しそうだぜ」
「は、はい、そうですね、啓三郎さん」
「ああ、まさに快晴!絶好の山歩き日和じゃないか!よーし、今日は真言くんに釣りを教えてやろう!あの川は結構釣れて面白いぞ!」



ワゴン車を運転しながら快活にお父さんは笑い、その後ろでスマホをいじりながら啓三郎さんは俺に笑いかけ、そして真壁先輩は少しため息をつきながら二人に言った。



「……ったく、ついて来ないでもいいのに……そんな遠い所じゃねぇんだし。だいたいあんたら二人、こんなんに付き合ってていいのかよ。兄貴はともかく、親父は道場はいいのか」



真壁先輩の声色は少し恨めしいようにも聞こえたが、お父さんはそれを吹き飛ばすような明るい声で言った。



「なあに、今日は話し合いも会議もない。っつーか、あんな体も動かさずに膝付き合わすだけなんざ、俺の性にあわねぇ!そろそろ脱走すっかなぁ、と思ってたとこでよ」
「……おい」
「ハハ、それは冗談だ。ま、どっちにしろ自然の中で、少し息抜きしたいと思ってたんだよ。それに、あそこは電車で行けるところではあるが車の方が遥かに楽だろ?」
「……そりゃあ、そうだがよ」



ニカ、と笑うお父さんに、真壁先輩はため息をつきながら頷く。するとそれに便乗するように、啓三郎さんも俺に話しかけてきた。



「俺も大学休みで暇だからな。たまにゃ、アウトドアもいいだろ。まこちゃん、弁当作ってきたんだろ?期待してるからな」
「は、はい」
「……」



俺の顔を覗きこんでくる啓三郎さんに、真壁先輩は少しムッとした顔をする。が、すぐに諦めたのか、いつもの笑みを浮かべながら俺に言った。



「……ま、こうなったからには、真壁家流の野外活動をお前にも楽しんでもらうか。……真言、言っとくがウチのハイキングはハードだぞ」
「……な、なんとなくわかります」



ちょっとビビりつつ俺は頷く。……でも、何かちょっと楽しそうな気もしてワクワクもしてしまう。



そして、山の麓にある駐車場に車を停めたお父さんは、早速俺たちを連れて山の頂上を目指した。確かにそんなに高い山じゃないし、子供連れのファミリー層なんかもちらほら見かけたから、そんな大変じゃないかな、とたかをくくっていたが、……そんな事はなく、なかなかハードな山道で、俺はちょっと息が上がってしまった。しかしさすが、真壁家の皆さんは慣れたもので、足取りも息も乱れる事はなかった。三人三様に気遣われながら登るのはちょっと情けなかったが、頂上にたどり着いた時にはちょっと感動してしまった。そして、ちょうど昼ごろになっていたので俺たちはそこで弁当を広げ、草花や上からの景色を目一杯楽しんだ。そして、下山途中の川でお父さん主導で魚釣りもした。――真壁先輩に寄り添ってもらいながら何とか一匹釣り上げたし、お父さんと啓三郎さんは釣りレースを始めて凄い勢いだったり、広い川辺では石投げをしたり、本当に楽しい一日を過ごした。そして、お父さんの運転する車で俺は居眠りをしてしまい、……そしてそのまま寝込んでしまうという失態を演じてしまったのだった。

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