C


――最終日


……そして、その翌日、俺が寮に帰る日。朝御飯を終え、荷物を整えた俺は玄関に鞄を運び出す。忘れ物はないか、ともう一度部屋に確認しに行ったた俺は、啓一さんに声をかけられた。



「やあ、白河くん、ゆっくり休めたか」
「あ、啓一さん、……おかげさまで。昨日は爆睡しちゃってすみませんでした」



恐縮しながら俺が謝ると、啓一さんは笑いながら言った。



「いやいや、気にしないでいい。よくある事じゃないか、俺も親父も、外でひと暴れしたら大体バタンキューだよ」
「は、はあ」
「しかし、今日で君も帰るのか。寂しくなるな、なぜか君がいると武骨な我が家も少し潤いがあるような気がしていたからな」
「……、ありがとうございます。俺も本当に、この四日間、……楽しかったです」



啓一さんの言葉に、俺もちょっとしんみりしてしまう。……俺も、この四日間、とても楽しかった。みんなによくしてもらったし、小学校の頃、親が離婚してしまったせいか、家族で何かやった、という記憶が俺にはない。その頃には兄弟もいなかったから、みんなで遊びに行く、――みたいな事は憧れで、思えばこの四日間でその願望が全部果たされたような気になっていた。それがなくなる、――と思うと、知らず顔も暗くなってしまう。するとそんな俺を見、啓一さんは微笑しながら頭を撫でた。



「ハハ、そんな顔をするなよ、白河くん。君も見てきてわかったろうが、我が家はいつでも無礼講だ。だからいつでも帰ってくるといい」
「……え、……帰っ、って」



思わぬ啓一さんの言葉に、俺は目を丸くする。すると
「どうせ、京とは長い付き合いになるんだろ?なら、今度はここに帰ってくるつもりで来てほしいんだよ」
「……」
「多分、うちの連中はみんなそのつもりでいると思うぞ。……遠慮なんかしなくていい」



さらっと、啓一さんはそんな事を言う。それに少し俺はどきり、としてしまう。……まさかと思うけど、啓一さんは俺と真壁先輩の関係を知っているんだろうか。いつかは、俺たちの関係を家族にも言いたい、と真壁先輩は言っていたけど、さすがに事が事だけに、簡単に口に出すとは思えない。俺は思わず啓一さんを見てしまうが、啓一さんはなんか穏やかな顔をして俺を見つめるのみだ。それに戸惑いとちょっとあったかさを感じていると、真壁先輩が俺たちに声をかけた。



「おい、真言、そろそろ出るぞ」
「あ、はい」
「ではな、真言くん」
「……、」



最後に俺にかけられた言葉に、俺、そして真壁先輩は思わず目を見開いてしまう。今まで啓一さんはずっと『白河くん』呼びだった。それが、――と思っていると、横で真壁先輩が苦笑にも似たため息をついた。



「……真言。兄貴と、なんかあったか?」
「あ、いえ、……世間話、みたいな事しかしてない、んですけど、」



そう言った後、俺はさっき言われた言葉を思いだしちょっと笑みを浮かべてしまう。それに真壁先輩は怪訝そうな表情を浮かべたが、それに俺はちょっと照れながら言った。



「『いつでも帰って来い』、って、……言ってくれました」
「……」
「……真壁先輩、……また、『帰ってきても』いいですか、俺」



ちょっとおこがましいかもしれないが、俺はそう真壁先輩に問う。すると真壁先輩は優しく微笑すると俺の頭を撫でてくれた。



「……ああ。いつでも帰ってこい」
「……はい!」



真壁先輩の手と微笑に、俺の心もあったかくなって。



――こうして、俺の夢のような三泊四日は、終わりを告げたのだった。



・END・

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