常時苦悩させられてます。はぁ。

幼馴染みは馬鹿の癖に石頭だ。
だから何だと言われたら一言、馬鹿げたポリシーをどうにかして欲しい。


「達哉く〜ん」

思い起こせば中学時代から、思春期まっしぐらな少女達の思慕を一身に浴びていたアイツは『まとも』だった。
敢えて言うが幼馴染みは決して馬鹿ではない。いや正しくは馬鹿だが、事成績の面に対しては、だ。

「また二位だったよ!」
「数学だけなら3年連続トップだぜ、やるなぁタツヤの癖に」
「癖にが余計なんだよケンヤ」
「見た目と言動が賢く見えねーもんな、コイツ」

クラスでも派手目な生徒達に囲まれて、いつもいつも教室の中心に居たアイツは人気者。必死に努力した結果首席をキープしていた文字通り『がり勉』の俺とは大違いだった。
何も彼もがスマートに。無理なんかしていないのが判る余裕綽々な態度で。失敗なんか知らない。

「所詮二位だろーが。騒ぐ程の事じゃねーし」
「一位は相変わらずアイツかよ、のび太君」
「のび太言うなケンヤ」
「ほっんと、達哉君あの子の幼馴染みなのー?考えらんない」
「でも、のび太結構可愛い顔してんだよねぇ。美味しそう」
「京子姐さん、中学生の発言ですかそれ」

いつもいつも笑い者。
大人しくて目立たない俺が彼らと相容れる事など有り得ない。羨ましくなかったかと聞かれたら、全く平気だとは言えなかったと思う。だがそれだけだ。自分自身を偽りたくもなかったし、そもそも腹が立つ前に勉強した。早く早く大人になって、母さんを楽にしたいから。
家事の傍ら教科書を開いたし、高校に入ってからはそれにバイトも加わった。母さんは無理するななんて能天気に笑ったけど、頑固な所が父さんに似ているらしいのだから仕方ない。そう笑った母さんこそ充分頑固な人だから。


「タツヤさぁ、西園寺行くんか?やっぱ」

誰かが言った言葉。
近隣の中学生男子の羨望を集める有名私立は、高等部から採用人数が増える。授業料も高ければ偏差値も倍率も凄まじい私立に、推薦を勝ち得たのは俺と幼馴染みだけだった。成績は勿論、三年間皆勤賞だったら当然だ。
明るい幼馴染みは老若男女から受けが良く、推薦枠一人の選抜に、例え俺が挙手した所でアイツが望めば教師は十中八九、限りある推薦枠をアイツに与えただろう。我が校の誇りとばかりに、きっと。

「あー、西園寺ぃ?」

まぁ、馬鹿高い授業料を払う余裕も、特待生制度を勝ち取る実力もないのだから公立以外に俺が選ぶ余地はないのだが。

「やだね。あそこの制服、ブレザーがクリムゾンブラウンだろ?俺的に制服は帝王院のが好きだし」
「帝王院?!ちょ、本気かよ?!あそこ外部入学なんかやってんのか?!」
「帝王院の外部枠落ちた奴らが西園寺に入れたっつー話は良く聞くけどさぁ、ハードル高過ぎだって!」
「偏差値80とか化け物だよ。男子校なんか行っちゃやだぁ」
「だから例えばの話だろ、バーカ。どっちにしろ寮なんか入るつもりねーし」

本当は。あの時幼馴染みがもし、私立に進むと言ったなら。母さんに土下座して頼み込んで、馬鹿高い入学金を借りたかも知れない。桜咲いた後。バイトしまくって勉強する暇もないくらい困窮して、早々に退学していただろう。



「徒歩5分、何の取り柄もねぇ公立高校が俺の母校よ。ま、受かればの話だけどな」
「タツヤが落ちるなら俺ら全員落ちるっつーの」
「ユータ君は受かるだろうけどぉ」
「おー、じゃあ俺とユータのめくるめく二人きりの青春ドラマが始まるんだな」

なんて。
必死に参考書を読む振りをしていた俺を見て笑った幼馴染みは、何を考えていたのだろうか。


まるで見透かしたみたいに。
笑ったアイツ、は。



「きゃあ!」
「あ?」

物思いに更けていた俺を呼び戻したのは、甲高いが明らかに女性のものではない悲鳴だった。
キョロキョロと辺りを見回すが、サラリーマンや学生で賑わう昼時のファーストフードカフェに変わったものは見られない。

ちらり、とこちらを見ているOLや女子高生には気付いたが、敢えて無視したのは慣れているからだ。
中学時代は150cm代だった身長も、高校へ進学するなり日本人男性平均値に届く程度は伸びて、程々に女性から告白される事もある。その上バンドなど始めた幼馴染みから無理矢理押し付けられる形で流行の服装をしているから、今や地味ながり勉ではなく年相応の大学生だ。俺も。
いや、時々バンドやってそうに見えるなどと言われたりするが、幼馴染みの馬鹿野郎が人の耳にピアス開けたり、髪を勝手に切っていったりする所為だろう。見た目だけ派手に見える、らしい。そんなもん知った事か。

「やだ、彼かなり格好良くない?」
「かなりイケてるよねぇ」

コソコソ囁きあっている周囲に眉を寄せた。彼ちょっと格好良くない?やら、ちょっとイケてるよねぇ、なら。良く言われるが。いや、自画自賛ではなく。かなり、と言う修飾は恐らく俺ではない。何せ彼女等の瞳が俺を通り越して別の方向に向いている。

何とも無く腕時計を見やり、手持ち無沙汰から弄んでいたカプチーノのティースプーンをソーサーに置いた。


「5分遅刻だな。何を間抜け面で突っ立ってるんだ、お前は」
「だだだだだだだだってぇ」

振り向けば想像通り、背中にギターを背負った幼馴染みの姿。178cmの長身に、何を着ても着熟す垢抜けた容姿だが、長い付き合いの俺から見れば鼻の下を伸ばし切った間抜け面でしかない。

「ゆゆゆユータったらぁ!はぁはぁ、そそそんなかかかわゆい事をぉ!!!はぁはぁ」
「…遂に頭が可笑しくなったか?」

本当に、こんな奴の何処が格好良いんだ。吃りながら悶える光景が気持ち悪過ぎる。

「だだだだだだだだってぇっ、ユータがニャンコぉおおお!」
「は?どうした、本気で大丈夫か?」
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
「た、タツヤ、落ち着こう。なぁ?」
「はぁはぁ二十歳の男がはぁはぁカプチーノにはぁはぁニャンコぉおおお!!!いやぁあああっ、もうアタシをどうにでもしてぇえええ!!!」

オカマ言葉で隣のテーブルをガツガツ殴る幼馴染みに全ての視線が突き刺さり、痙き攣った俺が口を付けていないソーサーをそのままに逃げようとすれば、ガシッと足に抱き付いてきた幼馴染みが紅く染めた顔で見上げてくる。いや、だから何なんだその気持ち悪過ぎる面は!

「はぁはぁ、アンさんうちをどないしたいんどすか!はぁはぁ、うちはもう辛抱堪りませんのやでぇ!」
「離せ!うわっ、何をしてるんだ貴様は!」
「ユータがぁっ、カプチーノなんかにニャンコ書いてるからぁ!エロい顔で物思いに更けてるからぁ!ついうっかり10分も見惚れちゃったじゃないかぁ!勃起しそうになったじゃないのよぉう!」
「はぁ?!ちょ、離せっ、黙れっ!やめろっ、ええいっ、離せと言っとろうが変態がっ!」
「責任取って結婚してぇえええ!アタシのお腹の中にはアンさんの子供が居りますのやでぇえええっ」
「黙れぇえええ!!!!!」

隣の椅子に置いていたスリーウェイバッグを振り上げ、俺の足に頬摺りする変態を撲殺した。





「きゃ!酷いっ、うちはこんなに愛しとりますのに!」
「気色悪い言葉を使うな馬鹿が!今すぐ黙れ!いっそ生涯黙れ!」

いつからこんな馬鹿になったのだろう。いやもう本当に、昔は此処まで馬鹿じゃなかった筈だ。


「やだね。俺の溢れる愛は口にファスナー縫い付けても皮膚を突き破っちゃうんだからっ」
「黙れ」
「ハッピーバースデーおーれー、ハッピーバースデー達哉ー、ユータに殴られてもぉ、ハッピーバースデーたっちゃーん♪」

突き刺さる視線に耐え切れず足早に店内から出て、もうあの店には行けないなと溜め息一つ、こっちは半ばダッシュに近い早足で歩いていると言うのに、まるで焦っていない呑気な歌声が背後から途切れる事はない。三歩離れて、然しそれ以上離れる事も近付く事もなく付いてくる。ずっと、ずっと。

「わぁい、嬉しいなぁ、悲しいなぁ、お誕生日なのに誰もおめでとうって言ってくれなぁい」
「…明日だろ」
「はぁ。今日から恋人とドライブデートだった筈なのになぁ、はぁ、レストラン予約したのになぁ…はぁ」

天皇誕生日の今日、午前中に休日講習があっただけの俺が、午後から遊びに行く約束をしたのは随分前だ。年末の慌しさに乗じて、神戸まで行ってみようと持ちかけたのは俺だ。坂本竜馬で有名な亀山社中の元の軍跡が見たかったから、だけど。

「恋人はサンタクロース、ツンデレなサンタクロース…はぁ。サンタさんは俺の所には来ないんだ…」
「黙れ」
「ボクの欲しいものは愛ですサンタさん。ユータくぅん、ユータちゃぁん、ユータさぁん、ユータさまぁ、ユーちゃん、」
「黙れ」
「裕太ぁ、怒っちゃいやーっ、うぇぇぇん!」

ぎょっとした様に振り返る人達を横目に眼鏡を押し上げ、冗談の様な泣き声を聞きながらまた、溜め息。

「ぎょえええん、ぶえええんっ」
「黙れ、良い男が気色悪い泣き声を出すな」
「だって…!二人の新婚旅行がっ、成田離婚にぃ!」
「黙れ」
「…裕太は俺が嫌いなんだ。良いもん、違う女の子に祝って貰うもんっ」

走って行く靴音に振り返れば、その場で足踏みしている幼馴染みのニヤケ面がある。…くそ、騙された。

「浮気なんかしないよぉう、うふふ、心配性なんだからぁ、ダーリンってばぁ」
「…」
「ユータ?」

沈黙した俺を恐る恐る覗き込んできた幼馴染みの胸ぐらを掴み、眼鏡を鷲掴んだ俺が恐らくぶち切れているだろう笑顔を浮かべれば。ニヤケた幼馴染みの表情が一気に青冷めた。


「俺以外でお前を満足させられる奴が居ると思ってんのか、達哉」
「あ、あの、ユーちゃん?」
「言ってみろ、…ほら、何処に居るんだ?」
「いいい居ません何処にも居ませんっ」
「素直に祝って貰いたいなら少し黙れ、口塞ぐぞ馬鹿野郎」

ぐいっと引っ張って耳元で呟けば、目を見開いたままズルっと崩れ落ちた幼馴染みを鼻で笑った。昔から俺がコソコソ話をするとコイツは何故か固まる。恐らく擽ったいんだろう、多分。

「くち…ふさぐ…って…」
「塞がれたいなら騒げ、…何赤くなってるんだお前は」

ぶんぶん頭を振る幼馴染みを余所に、漸く見えてきた新車へ駆け寄る。株とバイトで貯めたお金で買ったタツヤの車だ。RVだから買い溜めしたい時に便利で、日曜の買い出しはこれに乗せて貰ってる。

「早く開けろ、寒い」

コクコク頷いたタツヤが、神戸に着くまで一言も喋らなかった事とか、高速道路を140kmで駆け抜けたとか事件がちょくちょく起きていた様だが。
車に乗ると眠たくなる俺が気付く事はなかった。


「どうすんだキスで塞ぐとかならまだしも、猿轡される場面想像して興奮した俺大丈夫か違う俺はMじゃないかんな絶対…っ。…あ、でも女王様な裕太ちょう萌える…違う違う違う俺はMじゃないっ…多分………きっと」

クリスマスイブ生まれの幼馴染みの誕生日プレゼントに参考書をやったら、渇いた笑みを浮かべたタツヤからクリスマスプレゼントにブランド新作ジャケットを貰った。

「今日は自棄に大人しいな。肉まん目一杯詰めてから足で口踏み付けて黙らせるつもりだったのに…ちっ」
「ア…ハ…ハ…足で…踏み付け…アハハ…」

肉まんを大量に買い占めていた達哉の目が異常に怪しかった気がするのは、考え過ぎだろう。


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