(こんなんでも親は親)
「おめでとうございます」

完全な出来レースだ、と。
気付いたのは、ロボット染みた表情に貼り付けた様な笑みを湛え、モニタに映った何枚かのネガ写真を示した医者を暫し眺めた後だ。

「我らステルシリーソーシャルネットワーカー世界一同、待ち兼ねた待望のご懐妊でございます猊下」

そんな筈がない。だって危険日は避けてたの、などと狼狽えながら然し然程働かない表情筋故か、貼り付けた笑みを浮かべてはいるものの顔色が徐々に悪くなっていく医者は目を逸らし、再び交わる事はなかった。

「…つきましては、大変喜ばしいながら少々御身に関わる重大なお知らせがありますので、ご拝聴下さいますか」

危険日も何も毎日ズコバコズコバコ、ところてんメーカーばりに出し入れされていれば安全な日を探す方が難しい話だ。それ以前に、男には危険日などない。いつでもフリーダム、たま〜に便秘に悩まされる程度、毎月下血したり年中便秘にヒスを起こしている女性らに比べてみればそう、可愛いものだ。


だから、何故「おめでとうございます」なのかと言えば、早い話が出来レース。全ての原因にして、いずれ生み落ちるだろう奇跡の赤ちゃんの父親、


「実は胎児と思われる心核が複数見受けられます」

もとい、奇跡の赤ちゃん『達』の父親、見た目も中身も世界最高級にして、現在ばりばり世界征服中の旦那、兼、嫁の、そう、余りにもいつもとしか言えないマイペース過ぎる計画なのだ。

「ふ、双子なんて…そんな…いきなり…」
「いえ、これは恐らく五つ子ですね」
「ぷはーんにょーん」

仕込まれた。完全に仕込まれた。
いや仕組まれた。仕組まれて、仕込まれた。何とか戦隊を組めそうな五人、野球には少し足りないが麻雀には余る五人、も。
最近益々唐揚げが美味しいと、つい今朝最高むしゃむしゃ記録をマークしたばかりだったが、よもやのファイブ。初めての妊娠がファイブ。まさか、いつの日か想像していた妄想世界のベイビー達が実現してしまうのだろうか。

「しょ…しょんな…!今秋出産予定のメニョたんですら双子だと言うのに!あのスゥたんのオタマジャクシでさえ双子だと言うのに!どう言う道理ですにょ!」
「我らが唯一神たるノア・メア両サー=グレアムの威光を、改めて思い知るばかりにございます」
「いやー!そんな好き者みたいに言わないで下さいましー!ひっく、ぼ、僕だって幾ら新婚だからっていつまでも毎晩エロスに溺れるのは精神的にも腰痛的にも悪いのは判ってるんですっ」
「恐れながら猊下に腰痛が?今一度再診を、」
「カイちゃんが絶倫過ぎるのょーーー!!!」

絶叫が響いた。医者が貼り付けた笑みで耳を塞ぎ、知らん顔。
ああ。桜舞い散る中、大学内でもコミケ会場でもサークル活動しかして来なかったが奇跡的に卒業し、先月奇跡的に社会人になったばかり。
これからが季節は梅雨に入り雲と雨を生み出し、轟く眼鏡で真の萌えを生み出す時期だと思っていたのに、だ。

何せ夏コミ前。

「ふぇ、ふぇ、ほぇ、くぇ、きょーっ、おぇ。やだ、つわりが…」
「恐れながら猊下、先月の健診では懐妊は確認されませんでした。ですので長く見積もっても6週程度だと思われるのですが、」
「えっ。じゃ、ただの妄想つわり?…おぇ。でも本当に吐きそう…ぷはん、うぇ」
「実は有り得ないほど成長が早く、恐らく早ければ夏にでもご誕生なさるのではないかと思われます」

待って。
それって、じゃあ、折角受かった有明メガビックサイトの入場券は、どうなるの。

「そ、んな…」
「どうか、出産までは安静になさって下さい」
「コ、コミケ…コミケはどうなるんですか?!去年の冬は落ちちゃって泣く泣く歓喜の一般参加しか出来なかったのにっ!」
「猊下、ご安静に」
「ガタブルガタブル、おのれカイちゃんめぇ!!!こうなったらっ、ベルセウスで社員一同慰安旅行に行くわよ!」
「えっ?!」

拳を握り締めた男はしゅばっと立ち上がり、光の速さで黒縁眼鏡を掛け、青冷める医師へ力強く宣言した。



「目的地はTOKIOビックサイト!こうなったらステルシリー全員でサークル参加じゃアアアアアアアア!!!!!」

その夏のコミケ会場で、スイカっ腹を抱えたマタニティ姿のオタクと、例年以上に多い異国人のコスプレが見られたとか何とか。







大量に持ち帰った同人誌を読みあさりながら、つるっと五つ子を産み落とした彼の名は、記すまでもないだろう。



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