リア充と腐男子の
(リア充の法則)
俺は大河枝15歳。
枝豆と呼ぶ奴は片っ端から殴るから気を付けろよ。



帝王院学園一年Aクラス一番、つまり学年順位31番で成績も悪からず、彼の有名なポカリの如き清涼系な顔だ。
友達も多く、中等部の後輩からも慕われている、兄貴系にも弟系にも擬態するのが俺。

学園外に出ればそれなりにモテる。因みに童貞ではない。決して違う。

何故か学園の奴らからは童貞と思われてる節があるが、それくらいで怒らないのが人付き合いの秘訣だ。メモっとけ。


顔だけは誉められる糞父の輪郭と、怒ったらラーメン通も舌を火傷するほど熱いラーメンぶっ掛けてくる母ちゃんのでっかい目を足し算すると、俺。
そんな俺に、見た目は親父そっくりな双子の兄貴が居た。

真面目すぎる性格で、ぶっちゃけ俺を甘やかしまくる優しい片割れだけど、双子の俺にさえ近頃は感じてる事の半分も言わない。
大人しくて口下手なアイツだから、気長に話を聞いてやれば言うんだろうけどな。変態暴力親父には自分から愚痴をぶちまけてるんだから、俺のイライラが判って貰える筈だ。判らん奴は殴る。



いつからこうなってしまったかは覚えていない。
確かに夜遊びが楽しかった時期があって、一生懸命お説教しようとするとーるが面倒臭いと思った事もある。

とーるは俺がキレた振りをすれば黙るから、多分、それを何度か繰り返してる内に見捨てられてしまったんだろう。
俺みたいに出来損ないの弟は。



とーるが図書館に通ってる事を知らなかった。
とーるが俺以外の奴と話せる事を知らなかった。
本人はいつも、俺には何も話さない。だから気付いてやらないといけないのだ、寛大な心で。然し糞親父の性格が遺伝してしまった俺だけに、ハードルが高かった。どうしてもどうにもならない事はあるものだ。
メモっとけ。


たまたま行った小図書室は大図書館よりもマイナーな本しかないから、ほぼ無人で。窓辺特等席に向かい合って腰掛ける姿は、入口からも外からも丸見えだった。

にこり、不器用に笑う兄の吃らない声が聞こえてくる程には。



人はこれを、餓鬼っぽい独占欲と言う。



「もうこんな時間。お腹空いたね」
「ひぃ君、帰るの?」
「今日は中枢円卓に枢機卿が集まるんだ。翼の生えた車が待ってる」
「は?」
「どうせ乗るならかまぼこに乗りたいね」
「んっ」

つまり、龍が何をされたのか、も。丸見え。
テメ、俺の兄貴に!と、俺は待ち伏せた男に半ギレで怒鳴った。
イケメン兄弟と噂されてる俺でさえビビるくらい、恐ろしい美形が振り返って見上げてくる。
負けず嫌いの俺は怯みそうになる足を動かして、だだだっと駆け降りた先。
俺とそんな変わらない身長を、精一杯睨み付ける。母さん似のデカめな目で。

「テメェ、気安くとーるに近寄んなっ。殺すぞ」
「誰」
「弟だっつってんだろ!つーか、この大河枝様を知らんっつーのか!」
「興味がない」

知らないならまだしも、淡々とした声音で微笑を浮かべてる男はすぐに背を向けようとした。
かっとなって肩を掴めば、唇は笑ってんのに、作り物めいた紅い眼は冷え冷えしてる美貌だけ振り向く。

「人から触られるのは嫌いだ」
「…んだと?!本気で潰されてぇのか!ああ?!」
「そう、…大河如きが?」

気持ち悪い。
この男は気持ち悪い。

中央委員会副会長に就任したばかりの帝王院次郎も方々から恐れられているが、その見た目はともかく、雰囲気。
大河家を『如き』と呼べる家系なんか、まずない。

「何、なんだよ、テメ…」
「…Xi。今日は十一番目だよ、雑音」

気持ち悪い。
人を雑音と呼ぶ男の笑みも、眼差しも。全てが。



「例外は龍君だけ」






一年進学科Sクラスには帝君が二人居る。

中等部時代から有名な二人は兄弟で、帝王院財閥会長子息である二人の内、次男の帝王院次郎はその威圧的な見た目と、誰にでも気さくに萌えを語り掛ける変人として悪名高く、大抵いつもデジカメを携えていて鼻息が荒い。

けれどその兄の噂は殆どなかった。あれだけ有名なのに、だ。


寡黙の貴公子、なんて呼ばれてる大河龍には、非公開の親衛隊がある。
毎朝毎朝、律儀に靴箱にラブレターを突っ込んでは、困った表情で『また…脅迫状…』と呟く背中を昇降口の影から涎を垂れ流して見守っている変態ばかりだ。
寡黙な男の一喜一憂がご馳走らしい。


今の所とーるに実害はない。だから俺も黙認の方向だった。


なのに、中央左席両執行部改編から二ヶ月、一斉考査を終える頃には、大河龍親衛隊も改革が起きた。
気安く近寄るなかれ、気安く萌えるなかれ、全ては英雄陛下の為に。
何のこっちゃ。

夜遊びにも飽きてきた俺が真面目に受けたテストは上々だったが、近頃憂い顔のとーるに意地悪言った俺は大馬鹿だ。
だって苛立っていた。夏休み前の浮かれた雰囲気も、何やら物憂げな兄にも、忘れられないあの男にも。

「枝。夏休み…帰る?父さんが戻ってくる、けど」
「は、俺がどうしようがお前に関係ねーだろ。いちいち兄貴面すんな」
「ご、めん」

俺は、本物の馬鹿だ。
…これはメモらなくて良い。



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