メインアーカイブ

最終更新2021/10/15(詳細はUPDATE)

たいやき心と秋の空

暇だ、とオレンジに染まる空を見た。

「もぅ、あんな奴なんか知らねー」

膝を抱えて座る土手から川を見遣る。地面の影がいつの間にか伸びていて、その歪んだ形に笑う。立ち上がってみるとまるでモデルの様に長い足が地面に現れた。
影の癖に生意気だと舌打ちした時、やや離れた所に停車した軽トラック。

甘い匂い。
やきいもかな、と小走りに近付いた。


「おっちゃん、それ何?」
「いらっしゃい、たいやきだよ」
「うまそう」
「まぁね」






たいやきと見つめあう事、数分。
元の土手で再び膝を抱えて、たいやきの唇を奪った。

「んー、美味。」

早い話が頭だ。尾と頭、たいやきの一口目は大抵そのどちらかで。
頭から噛るのは可哀相だ、と言う親友はいつも横腹から食べている。それも惨いとは思うが、そんな事よりも口の中に広がる甘さが幸せな気分にしてくれて。

「次は横腹? それともプリチーヒップ? マリリンモンローの生まれ変わりだろ、お前。この俺の美尻愛好心をくすぐってます」

今にでも川を泳げそうな尾だと呆けた台詞を呟いた。
食べるのが可哀相になってきた馬鹿な男、結局は食べ盛りの高校生、一口でマリリンモンローともお別れ。男心は秋の空よりも変わり易い。

食欲至上主義。




「…切ない」

けれど、腹が満たされてしまうと何だかセンチメンタルになってしまう。きっとオレンジの空や川土手と言うシチュエーションが青春映画そのものだからだ。
熱血教師が生徒と語り合ったり、恋人との語らいだったり。

例えば、年上の恋人がモデル張りのスタイルを持つ超絶良い男だったりして。
誕生日くらいなら、一日くらい一緒に居られるんじゃないかって考えてしまったりして。
浮かれていた今朝までの自分が馬鹿みたいだったりしちゃうと。

「…畜生、何で日曜日まで仕事してんだ青年実業家の馬鹿野郎っ」

やっぱり、センチメンタルになってしまう。
なのに折角のマリリンモンローはキスしただけで居なくなってしまった。自分の食欲が憎い。



「あ。」

影が急に伸びた。まるでスーパーモデルみたい。
見上げれば影に負けないくらい長い足とモデルよりも綺麗な顔。


ああ、



「ぎゅって、して」



いきなり唇を奪われてしまったけれど、自分はたいやきではないから。別に食べられたりはしない。
切ない気分が超絶ハッピーに変わっただけ。



単純な男心。

  PCサイトのものを改編。

- たいやき心と秋の空 -

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -