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最終更新2021/10/15(詳細はUPDATE)

ロールプレイング王子

世界の裏に魔界があって、魔界には朝がない。
人間と変わらない姿の、けれど魔力を持った魔族が暮らしている。



それは全て、お伽噺だった筈だった。






「魔王が姿を現した」

人間の王はそう言って、疲弊した国民をどん底へ落とす。
広かった世界は9割が魔族に支配され、残っているのはこの国だけだった。長い長い争いの果て。
この国が最後まで生き残ってきたのは、魔力とは違う魔導力を持つ民が多かったからだ。けれどそれも、数百年前からじりじりと滅亡の一途を進んでいた。

王の言葉は忽ち国中を馳せ、王は魔族との最終決戦を指示したのだ。王は自らの長男を勇者として知らしめた。
彼は歴代王族の中でも最も、魔導力を秘めていたからだ。



「兄貴が家出した?!」
「そうなのよー、どうしましょう。コダマ王子ったら、才能はあるのにちゃらんぽらんだとは思ってたんだけど…」

そんな一大事の中、先代王妃の忘れ形見である二十歳の王子は書き置きを残し家出した。王の後添いである現王妃の母さんからそれを聞かされた俺は、部屋の隅で膝を抱えている親父…つまり国王を見つめたが、こんな時までのほほんとしている母さんは煎餅を齧る。

「困ったわねぇ…。ピーちゃんには魔導力が全くないし、剣だって下手だし、足は短いし…」
「ピーちゃん言うな、俺はヒビキだ。母さん、自分の息子を陥れて楽しいのかい?」
「だって本当の事でしょ?」
「ああああああー!!!!!」

リアリストな母さんの台詞に落ち込む間もなく、部屋の隅で絶叫を上げた親父へ俺は振り返った。

「こうなったら仕方ない、死のう!どうせ魔王が現れた今、殺されるのは確定だ!800年に渡りこの国を守ってきたご先祖様に顔向けが出来ない事だけが悔やまれるが、コダマが居ない今、疲弊した魔導軍だけでは勝てない!終わりだ!でも一人で死ぬのは怖いんだもん、一緒に死のう!な、母さん!ヒビキ!」
「そうねー、ぐちゃぐちゃに殺されるよりは、マシかしらねぇ」
「苦しくない死に方を調べよう、母さん!」
「痛くなくてコロッと死ねるお薬が楽じゃないかしら、パパ」

話にならない両親に、大臣達も絶望を深めるのが判る。
今にも国民に自殺しろと言いかねない気配を察知した出来損ない王子の俺は、暫く考えた末に、諦めた。

「良し、俺も男だ。兄貴みたいにミュージシャンになりたいから勇者にはならないなんて逃げ出したりしない」

大体、この国しか人間はいないのに、何処でミュージシャンになるつもりだ馬鹿兄貴。才能に愛され過ぎて夢を見すぎた馬鹿兄貴。足が長くてイケメンだっただけに、悔やまれる。腹違いの兄貴は天然だった。優秀だが、馬鹿だった。奴に悪気がない事も判ってる。

「でもどうせ死ぬなら、その前にやれる事はやりたい。親父…国王陛下、どうぞ私を勇者に任命なさって下さい」
「ヒビキ?!お前に勇者は無理だっ、わざわざ殺されに行くつもりか!パパは許しませんよ!」
「そうよ、ピーちゃん。勇者は代々伝わってきた国宝の鎧を着なきゃならないのよ?ピーちゃんには無理よ、非力だし足が短いし」
「ははは、親父、母さん、ははは、そこまで無理だ無理だと言われると俺、俄然やる気になってきたかもー」

俺だって殺されたくはない。
戦うのは無理だ。俺には才能がない。才能、人間の世界ではそれが優劣を決する。俺の才能は………何の才能もない、と言う事だ。これに限っては俺が世界一だ。生まれた瞬間、占い師のババアが太鼓判を押したそうだからな。
俺の才能は何の才能もない事だ、と。舐めてるなババア、その通りだよ。チキショー。

「俺は、魔王と話し合いで戦争を終わらせる。任せとけ!」
「ヒビキ…」
「ピーちゃん…」
「パパは」
「ママは」
「「とっても不安」」

そうだね、俺も不安だよー。










と言う訳で俺の旅は始まった。
国を出て街道をちょっと進めば、明らかにうちの国の民とは毛色の違う奴らがうじゃうじゃ居た。何せ見た目が人間離れしてる。

角が生えていたり、羽根みたいな翼が生えていたり、足の代わりに蛇みたいな胴体がついていたり、空を飛んでたり、どう見ても普通じゃない。
しかも、そのどれもが呆れるほどの美貌だ。堂々と街道を歩いてる普段着の俺なんか、空気。マジ虫レベル。誰もこっちを見ようとしない。

「あーん、もう。最近曇ってばっかで嫌になっちゃう!」
「魔王様がアビスからこっちに来ちゃったんでしょぉ?やだぁ、魔王様が居る所ってすぐ闇に染まっちゃうのよねっ。また夜しかない世界に逆戻りなんて、有り得ないんですけどぉ」
「折角、意地悪な人間達が居なくなって住み易くなって来てたのにぃ」

何とした事だ。
魔族の言葉が判る。

魔族は俺達とは違う言葉を使うと聞いていたが、どうもガセだったらしい。何せ俺は城から殆ど出た事がないんだ。世間知らずなのは仕方ないだろう。
出来の良い兄貴が王になるのは決まってたし、王族は跡継ぎ以外は結婚しちゃいけない決まりだったから、親父の弟の叔父さんも独身だ。叔母さんは彼氏がいて子供も居るけど、結婚はしてない。隠し子って奴だ。因みに叔父さんには男の彼氏がいる。
何年か前になくなった国の傭兵だったゴツいおっさんで、魔族との戦争で死にかけてた所を偶々通り掛かった叔父さんが助けたんだ。叔父さんも兄貴と同じくらい魔導力を持ってて、軍に入ってたから。

「ってゆーか、魔王様ってマジイケメンなんですけどぉ」
「イケメンだけど千年くらい寝てたのにぃ、何で起きちゃったのよぉ。一億年くらい起きないってゆってたのにぃ」
「ま、仕方ないよ。アビスには真っ赤な月しかないから、飽きちゃうもん」
「だよね〜。あんな暗いとこ500年居たらいやんなっちゃうよぉ」

いや、然しチャラいな魔族。
どう見ても男にしか見えないイケメンだらけだけど、何で皆、女言葉なわけ?しかもド派手な見た目。すげぇ、カラフル。オカマだけど。
それとも見た目は男だけど実は女の子なのかい?判らん。俺は自慢じゃないけど勉強が出来ない。嫌いじゃないんだけど、勉強してもしても点が取れない才能を秘めた男だった。そんな才能は要らない。


何やかんや、国を出て半日、歩き続けた俺は、お腹が空いたので持ってきたパンを食べる事にした。噂の魔王が何処に居るのか判んないし、魔族に支配されたとは言え、他の国の生き残りが居るかもしれないと思っていたんだけど、一番近い村も一番近い国も、まだまだ先だ。俺の国はド田舎だった。
魔導力を持つ国民が8割で、俺みたいに無力な奴は他所から来たお嫁さんとか商人とか移民ばっか。母さんが他所から来た移民だったから、俺は母さんに似たらしい。お陰で魔導力はこれっぽっちもない。髪も目も黒い。珍しいんだけど、色合いからしてジミメンだ。母ちゃんは髪だけ茶髪だった。あと美人だった。ガサツだけども。
兄貴は金髪だった。目は親父と同じ、紫。めっちゃ派手。

「はー…。せめてマーガリンが欲しいな…」

持てるだけ日持ちするパンと水を詰めてきたから、俺の荷物は二日分の食料だけだ。何せ俺は城から殆ど出た事がない。国の外には一度も出た事がない。
大臣から渡された何年前のか判らない地図とにらめっこしながら歩いてきたけど、ある筈の山はないし川は干上がってるし、湖だった所には魔族が屯するテーマパークみたいなのになってたし。

「ミュージシャンか…。兄貴、音痴だった癖に…」

あらゆる才能に恵まれた兄貴だったが、歌だけは下手だった。俺も歌は下手だ。これは親父に似た。国王はどうしようもない音痴だった。

「はー。つーか真っ赤な月って、見てみたいかも。いっつも夜って事は、ずっとゲームしててもいいんじゃない?昼間は勉強したり兄貴の訳判んない遊びに付き合わされてたし………ん?」

いつの間に夜になったんだろう。
早朝、まだ暗い時間に城を出てからかれこれ半日、この国の夜は超短くて六時間くらいしかないから、まだ日が落ちるには早い時間帯だ。実際、俺が街道沿いの芝生に腰かけてパンを取り出した時までは、曇っていたが明るかった。
でも今は、真っ暗。月も星もない。

「えー、野宿ってやつ?ま、俺も男だ。野宿くらい何でもないけど、布団持ってこれば良かったなぁ」
「マーガリンの次は布団か」
「布団って便利だよ?折り畳むと枕にも座布団にもな………どなた?」

振り向けば、全身黒い服を着た、物凄く派手な顔立ちの男が立っている。今の今まで気づかなかったのも何だけど、油断していた訳ではない。

「俺は魔王だ」
「えー」
「…不服そうだな」
「自分で魔王って言う魔王なんか居るわけないじゃん」
「そう言うものか?」
「そう言うもんだよ」
「そうか…」

いや、何なんだこの男。
何で俺をガン見してるんだ。

「何?パン欲しいの?あげないよ?」
「パンは要らない」
「だったら何だよ。俺、野宿するんだから。あっちいけよ」
「野宿とは外で寝る事か」
「そうだよ。俺、魔王に会いに行かなきゃなんないんだもん。それまでは無駄な体力の消費は避けたい。判る?他人との会話って疲れるんだよ、それなりに」
「会ってどうする」
「一矢報いる」
「例えば?」
「そこが問題なんだよなー。俺、喧嘩した事ないし。魔導力もないし。魔王ってくらいだから、超つえーんだろ?つーかその辺の魔族も超強そうだったし。やだな、出来れば会いたくないんだよな。でもそれって不味いかな」
「不味いのではないか?」
「やだなー」

悲しくなってきた。
悲しくなっても魔導力がない俺には何も出来やしない。魔導力がないから戦った事もないし、勉強しても兄貴より馬鹿だったし、賢い兄貴は今頃どっかでギター弾いてるのか、野垂れ死んでんのか。判んないし。

「俺ってさー、争い事嫌いなんだよなー」
「人は争いを好むものだ」
「や、そりゃ売られた喧嘩は買っちゃうよ?大切な人とか家族とか守らなきゃなんないわけで、こう見えて俺、立場がある人なわけよ。ボンクラな癖に、俺の背中に数万人の民の命が懸かっちゃってるわけ」
「それがどうかしたのか」
「守らないといけないなーって、思うんだよなぁ。…俺って損なやつ」

溜め息一つ。
何処かから、爆発音が響いてきた。慌てて起き上がれば、闇の向こう、何故か青空が広がる辺りからキノコ雲が登っている。

「あ、あ」

あれは、俺の国の方向、だ。

「あああー?!何あれ何あれ、何やっちゃってんのぉおおお?!魔族?!魔族が攻め込んじゃった?!嘘だろ、ちょ、待てよ!俺が何の為に旅立ったと思ってんの???!!!」
「あれは違う」
「ああ?!」
「空を恋うナイトメアは、空の下では力を使う事は出来ない。俺の在る場所には必ず夜が付き纏うが、あそこに夜は届いていない」
「どゆこと?!全然判んないわ!」
「あれは人間が起こしたものだ」
「えっ」
「見ろ」

自称魔王が両手を伸ばすと、黒い煙が現れた。雲かパンみたいな形の煙は大きく広がると、スクリーンの様に映像を映し出す。
唖然とした俺はそれを見つめて、唇を震わせた。俺の国に、夥しい数の兵士が攻めてきている。

「な、なに、何じゃこりゃあああああ?!」
「新興国の軍だろう。ナイトメアを崇拝する悪魔教団の旗を掲げる、奇特な人間が居ると、寝ている合間に聞いた事がある」
「ね、寝てる合間に?!何それすげぇ!」
「そうか?自然と聞こえてくる。夜の国の音は全て俺に届く」
「そうなん?つーか本当に魔王だったりすんの?」
「そうだ」
「え、これ俺、戦わなきゃ駄目なパターン的な?…いや!今はそれよりうちに殴り込んできてる奴らを何とかしなきゃいけないんだった!くそ!走って間に合う距離じゃない!」
「戦況は悪い。新興国の王は人間にしては高い魔力を持っている様だ」

魔王の台詞を聞きながら、頭を掻きむしっていた俺は口をあんぐり空けて、黒煙のテレビを凝視したのだ。
だって、俺の国を襲ってる敵国の先陣、あれって、あれって、

「糞兄貴ぃいいいいい?!何してんだゴラァアアア!!!テメ、何自分の国襲ってんだぁあああ?!馬鹿か?!馬鹿だったん?!あの野郎、イキイキして親父殺しやがったー!!!!!」
「そう騒ぐな」
「これが騒がずにいられるかッッッ!!!」
「然し、この煙鏡は血デジじゃない」
「地デジ?!」
「夜の国の血デジは生放送だが、今見ているこれは収録だ。お前の父親は一時間ほど前に死んでいる」
「え、えええ?!」
「因みに国民は全員殺され、先程お前の母親を生け贄に悪魔儀式が行われ、お前の義兄が儀式に失敗して起きたのが先の爆発だ。故に、生存者はいない」

見ろ、と。
恐ろしい事を無表情で告げた自称魔王が指差す方向、キノコ雲が未だに漂っている俺の国の空は、真っ暗になっていた。魔王曰く、国の結界がなくなった所為で、魔王の纏う闇が国を覆ってしまったらしい。

「兄貴、は…?」
「死んだ」
「母ちゃんも、父ちゃんも…」
「死んだ」
「そ、んなぁ…」

俺はがくりと倒れ込み、からっからに乾くまで瞬きを忘れた。暫く呆けた様に夜空を見上げて、漸くしてから、ボタボタと、涙を零したのだ。

「ひ、一人になっちゃったん、だ…」
「目から、何を出している?魔法か?」
「…はぁ?涙だよっ!悲しくて泣いてんの!魔王めっ、そのくらいも判んねーのか!」
「判らん。ナイトメアには血液と精液以外の体液はない」
「汗とか唾液とかは?」
「汗は知らんが、唾液は精液と大差ない。興味があるなら飲むか、錯乱するぞ」
「錯乱したくないから要らない」
「そうか」
「はぁ。もう、何か疲れた。魔王倒す理由もなくなったし、帰る国もないし…」
「どうするんだ」
「干からびて死ぬまで寝る」
「それならば俺の城に来い。退屈で敵わん」
「退屈?寝てれば良いじゃん、寝るより楽はねぇよ」
「2000年ほど寝た。最低でも80年は眠れん、目が冴えた」
「マジか」

魔王も色々大変なんだなって思ってると、いつの間にか周囲は真っ暗。いや、本気で真っ暗。何も存在してないんじゃないのってくらい真っ暗で、さっきまでうじゃうじゃ見掛けた魔族や魔物が、一匹もいない。
俺からは魔王しか見えなくて、自分の手も、足も、全部見えなくなってた。何故だ!

「何これ何これ恐い!何か恐い!」
「俺の近くにあるものは全て闇と同化する。心配は要らない、俺が存在を許した者は個のままだ」
「どゆこと?!許さなかったらどうなんの?!俺?!」
「消える」
「消える?!死ぬんじゃなくて?!」
「知らん、判るのは消えるだけだ。俺を産み出した神を疎ましく思った事がある。その瞬間、奴は消えた。それ以来5億光年以上、奴を見ていない」
「かっ、神様を…?!」

闇と同化してしまった俺は決して魔王には逆らうまいと息を飲み、目には見えない手で頭を掻いた。つもりだ。見えないし感覚ないしで全く判らん。これ生きてんの俺?やばいんでないの俺?

「ま、いっか。どーせ俺も死ぬのを待つだけだし…あ、今なら超泣いても誰にもバレないんじゃない?良し、泣きまくる。馬鹿兄貴…!親父と母ちゃんと皆を殺しやがって…!そんで自爆しやがって、テロか!馬鹿兄貴!あんな奴でも、死んだら寂しいよぉう、おぉう…おぅ…」

わんわん泣いてると、何か、ほっぺ触られた。
目を開けると魔王がやっぱり無表情で俺を見つめてて、生気のない手を伸ばしてる。奴が触ってる辺りに俺の頬がある、と、思う。見えねー、全部見えねー。魔王は判るのか。すげぇな。やっぱ魔王だからかな。

「ナイトメアですら闇深い俺を厭うにも関わらず、人であるお前はこれ幸いに泣くとは…」
「んだよ、泣いたら駄目なのかよ」
「どんどん泣け」
「うわぁあああん!」
「少し煩い」
「ごめん、殺さないで」

ちょっとわざとらしく泣きすぎた。
故人を思って泣く時は偲ばねばだな、うん。干からびて死ぬまで寝るつもりだったけど、殺されたくない。何もない俺だけど、せめて、寿命が尽きるまでは生きていたい。つーか死ぬの怖い。

「どうせ殺すなら魔王の体液ちょうだい。錯乱してたら怖くないかも」
「殺しはせん。退屈凌ぎに連れていくだけだ。飽きたら返す」
「それは困るよ。捨てられたら俺、帰るとこないし…」
「そうか」
「捨てるなら連れてかないで」
「判った」

何か残念だけど、やっぱ闇と同化してしまうのはどうかと思うし…、これ笑うとこな。心の中で魔王バイバイとか思ってたら、何かいつの間にか周囲の景色がお化け屋敷のお城みたいな雰囲気の、くっそ広いホールになってた。
蝋燭が無数に立ってて、なのに炎じゃなくて、

「炎じゃなくて、黒っぽい紫…?」
「闇LEDだ。黒色発光ダイオードは、一度の充電で4000年持つ」
「すげぇ、近未来的お化け屋敷」
「そうか」
「魔王、俺、お腹空いた。何かないの?」

どうやら此処が魔王のお城らしい。いつの間に連れてこられたのか判んないけど、此処では俺の姿も見えるし、俺の城より暗いけど広いし、魔王以外は誰もいないし、ふかふかなソファあるし、これは寛ぐしかない。
遠慮なくソファに倒れ込めば、柔らかいソファは俺を全力で包み込んでくれた。何だこの包容力、結婚しよう。

「魔王、このソファを俺にくれ。幸せにするから」
「お前は今までに聞いたどの人間とも違う。まず目と髪が黒い。心の中の言葉が偽りなく口から出てくる」
「テメ、心が読めるだと?!じゃあエロいこと考えたらバレちゃうの?それプライバシーに抵触しない?」
「そう言うものか」
「人間社会はそうだよ」
「なら、お前もナイトメアになれば良い」

何言ってんだコイツ馬鹿じゃない?と、思った事が口から出てた。流石は勉強しても点が取れない才能の持ち主、俺。馬鹿は俺だ。死ぬ気か。死にたくねーな、まだ。あと80年くらい。

「来い」
「どこに?」
「俺の体液が飲みたいのだろう、飲め」
「…確かに言ったけど、何か嫌な予感がする」
「腹が減ったのだろう。体液を飲んだら、用意してやるぞ」
「何を?」
「マーガリン」

足元に落ちていた俺の少ない荷物を見た。
ちょこっとはみ出てる食パンを見つめ、俺は垂れそうになる涎を飲み込む。戦争が始まってから貧しくなった国は、一日に一個のパンと野菜で凌いでたんだ。だからもう、皆が死んで緊張が抜けた瞬間から、腹がグーグー鳴いてる。

「お、おに…お肉も食べたい…あ、や、これは図々しいか、ごめん」
「何でも好きなものを用意してやる。俺の体液を飲めば、お前が見えていないナイトメア共に、お前が見える様になる」
「…え?何か言った?」
「お前には俺が見えているのに、可笑しな話だ。来い、ヒビキ」

あれ?
俺、名前、教えたっけな?

そう思いながらも空腹に耐えきれず素直についてった俺は、馬鹿でかいベッドにぽいっと投げ捨てられて、何故か魔王にぱっくり食べられて、とんでもないところで魔王の体液をガブガブ飲ませられて超絶錯乱しまくる事になる。






「…まーちゃんや、月が眩しいねぇ」
「そうか」

錯乱明けの夜空は、眩しかった。
巨大な月は魔王が夜空に吊るした超巨大LEDだったと知ったのは、夜明けしないままの夜明けのコーヒーを飲んでからだ。絶倫は甲斐甲斐しくパンにマーガリンを塗り、無表情で俺に差し出してきた。

「喰え」
「いてて…。ありがと、何か起きてから全然お腹空かないんだけど、とりあえず食べる」
「ナイトメアに食欲はない。あるのは性欲だけだ」
「ふぁ?あー、マーガリンやっぱうめー!あ、あ、ベーコン焼けたんじゃない?ベーコンちょうだい。そっちの分厚いやつ!」
「お前は退屈せんな。あれほど俺の体液を飲んでおいて、一度寝たら元に戻るとは…」
「ふぁ?」
「所で、お前の母親は神の国出身だった様だが、知っていたのか?」
「そーそー、上ノ国はいつも雪降ってるド田舎でさ、神様に見放された国って馬鹿にされてたんだって。ま、魔王の城に居候させて貰ってる俺にとったらどーでもいい話だけど!」
「そうか」

因みに、無表情だけど万能な魔王は、頼めば何でも用意してくれた。パンもお菓子も食べ放題、ジュースも飲み放題。
オカマな魔族達がたまにやって来るけど優しいやつばっかで、俺は案外幸せに暮らしてたりする。


ただ、俺が魔王限定の食べ放題食材だってのは、良くないよなぁ。すぐにガバッと押し倒されて、キス一つで錯乱しちゃう俺がしょっちゅうあんあん言わされてるって事は、内緒にしてて欲しい。


「ヒビキ様ぁ、知ってたぁ?人間、全部居なくなっちゃったのよぉう、弱い癖に喧嘩ばっか売ってきて困っちゃってたのよ。人間って野蛮よねぇ」
「へ?そうなん?!俺、俺、とうとう人類最後の俺になっちまったの?!」
「ヒビキ様は陛下の奥様だものぉ、とっくに人間じゃないわよぉう?アビス最初で最後の魔王の奥様よぉ☆」
「ま、まーちゃんや、俺、いつから奥さんに?!」
「俺の体液を飲んだ時だ。お前の寿命は俺が消した」
「け、消したぁあああ?!」

神様も消しちまった旦那様に寿命を消された俺は、これからどうなっちゃうのだろう。今はとりあえず落とし掛けたステーキを慌てて食べながら、俺は考えた。

「陛下に名前をつけるなんて、流石は奥様。底知れないわねぇ、憧れちゃうわぁん☆」
「陛下ぁ、お幸せにぃ。でも人間界を闇で染めちゃわないで下さぁい、アタシ達、日焼けにハマっててぇ」
「ヒビキが逃げ出さない限りは消しはしない」
「「いやぁん、愛ってやつなんだわぁあああ!!!きゃー!」」

うわぁあああん!馬鹿兄貴ー!
生き返ってそれだけ教えてぇえええええ!!!!!


俺の寿命ってあと何世紀なの?!

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*めいん#
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