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最終更新2021/10/15(詳細はUPDATE)

記憶とは斯くも曖昧か

キスは勿論、誰かと手を繋いだ事もないのに、何故かセフレと毎晩遊んでる奴と言うレッテルを貼られていた事に気付いたのは、物凄く勉強して入った私立校の生徒会役員に就任してからだった。

「お前!いい加減セフレなんか、やめろよ!」

ああ、まただ。
相変わらず毎日毎日よくもそう大きな声を出せるなぁ、と感心しながら、ルームメート曰わく『ギリギリ平均以上が平均値』になってると言う顔を歪め、何とか笑みを保った。

「そんなんだから、お前、捨てられちまったんだぞ!」

うるさいよ。
お前が学校に来てから、皆が可笑しくなったじゃないか。

嫌みっぽいけどああ見えて細かい所に気がつく副会長も、決して嫌いなんかじゃなかった。
意地悪ばっかするけど仕事には真面目だった俺様の庶務も、俺のカフェオレに塩入れたりするけど楽しい仲間だった。
無口と言うより穏やかな性格だった書記だって、無理に喋る必要性なんか俺は感じなかったんだよ。ポツポツでも、彼は彼なりに一生懸命、喋ろうとしていたのを知ってる。


ねぇ。
理事長の甥だからって。幾ら変装して隠してたその素顔が物凄く可愛かったからって、うちの執行部滅茶苦茶にしてさぁ、俺のこと歩く性病みたいに言ってさぁ。


「…何が楽しいの?」

平凡だよ。
確かに、イケメンばっかの執行部で、皆に必死で付いていかなきゃいけないくらい平凡な俺は、流行りの雑誌で外見磨いて、毎晩教科書と睨めっこしなきゃ、取り立てて目立たない男だ。

「何言って…?!そうか、やっとセフレやめる気になったのか!そうだよっ、俺が一緒に居てやるからっ。お前は一人なんかじゃないからなっ」

物凄く小さい時に一回会っただけの初恋の人を追いかけて、高等部で漸く入学出来た程度の、本当につまらない奴なんだよ。


ああ、もう。
君が転校してから、副会長も庶務も書記も皆、そう、会長までが皆、君を選んだ。


俺だって。
俺だって、凄く努力したんだよ。慣れないブリーチ、怖いピアス、ジムだって行ったし、難しい参考書読みふけって、ちゃんと、この学園の一員になろうって。


「お前なんか嫌いだ。二度と俺に近付くな…!」

会長に相応しい男になりたい、って。



「何様だテメェ。俺様の薫に何っつった、ああ?」

大好きだった人の腕に収まる転入生が暗く笑うのを見た。
大好きだった人が汚いものを見る様に俺を見る光景。

「テメェこそ消えろ。もう、この学園にテメェは必要ねぇ」

そうか。
それが貴方の望みなら、いつ崩れるか判らない書類の山も、いつ狂うか判らない親衛隊も、忘れてしまおう。



「誰の馨に向かってほざいてやがる、貴様」

後ろから抱き締められて、耳に聞き慣れた声が掛かる。何故。何故。この声は、今、目の前に居る人のものじゃないか。

「っ、兄貴!」
「兄貴じゃねぇ、カスが。ちょっと目ぇ離した間に何してくれてやがるテメェは、ああ?」
「だ、だってソイツが薫に酷い事…」

狼狽える会長の顔。
いつ見ても高慢な程に自信満々だった表情が、崩れている。
ああ。後ろに居るのは、誰。誰。誰。

「馬鹿か。馨はこっちだ、こっち。どうせテメェはまたお得意の勘違いカマしたんだろうが、俺には最初から判ってんだよ。何の為に理事長やってっと思ってんだ、ああ?」

青ざめた転入生。
恐る恐る振り返れば、いつも見る理事長代理ではなく、会長と同じ顔をした、けれどもっと大人のフェロモンを放つ美貌が見える。

「よぉ、馨。お前、いつまでアレとこの俺様を見間違えてんだ?」
「しゅ、しゅーちゃん?」

だって、会長が。修平って名前の、会長が。

「ああ、大人になったら嫁にしてやるっつったろ。修弥様のなぁ?」






と、盛大な勘違いから会長に恋してたらしい俺は転入生が素顔を晒した次の日に大人の恋人を得て、何故かその日から会長に口説かれる事になる。
世間知らずだった他役員達も早くから転入生君の魅力の粗に気付いていたけど引き返せなかったらしく、今では真面目に業務をしているそうだ。


そうだ、と言うのは、


「さて、人がちょっと出張に行ってる間に、んなガリガリになりやがって…お仕置きだ」
「えっ」
「ああ、そうそう。何だっけ?セフレと毎晩遊んでるんだっけ?」
「ち、ちが!」
「童貞処女の癖に不名誉な噂流された分も、お仕置きだ」

それから丸1ヶ月、とても口では言えない事をハネムーンと称した監禁生活でされてしまったからである。

因みに、俺が高等部で漸く入学出来たのはしゅーちゃんが理事長になったからで、本来なら合格ギリギリの怪しい所だったらしい。
入学式で挨拶したのに、同じ顔をした修平に見惚れて気付かなかった事もバレてたらしく、

「危ない危ない、修平の野郎、昔お前の事いじめてたからな。気があるとは思ってたんだが…ふぅ。出張前に代理の甥、裏口入学させといて良かったぜ」
「えっ。しゅーちゃんが仕組んだの?!」
「同じカオルだったかんな。保険だよ、保険」

18歳になっても修弥に気付かなかったら強姦する予定だったと聞かされた俺は、


「えっと…俺まだ、16歳…」
「嫁にゃなれる歳だ、構わねー」
「えー…」
「文句あんのか」
「ないけど…」

初恋の美人だった筈の幼馴染みとお風呂に入りながら、昔の事を思い出していた。


「あ、そう言えば太った子にいつも追い掛けられてたなぁ…」
「そら修平だ」
「ええ?!」

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*めいん#
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